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-ノベルゲーム・タイピング-

暁の護衛【20】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
または
Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。

 

 

 


--------------------

 

 

 

 



 

「かーいーとー」
「絶対嫌だ」
「ぶぅ。まだなにも言ってないし」
「どうせ、麗華の部屋に行こうって言うんだろ?」

 



「……凄い。さすが私が見込んだボディーガードだね」
「その辺り因果関係ないから。あのな、お前はアホだから気づいてないだろうが、麗華のヤツ薄々気づき始めてるぞ」
「えぇっ、まっさか~」


こんなんだから気づかれるんだろうな。


「この間、大口開けてグーグー寝てたからな、お前」

 

「大口開けては寝てないし!」
「寝てるときの自分なんてわからないだろ」
「それはほら、乙女だし?」
「とんでもない乙女がいたもんだぜ」
「行こうよー。ソナタやカナタと話したいよー」
「だったら素直に麗華に教えてやれよ。あいつも喜ぶだろ、あいつらと話せることを知ったら」
「それはほら……まだ聞き出したいこともあるし」
「結局聞き出せないオチだろ」
「今日こそは聞くから」
「その次も、その次も、そうやって言ってくるんだろ? 子供のパターンだ」
「絶対もうこれっきり!」
「一筆書くか?」

 

 

「書く書く」
「よし。なら……」


オレは紙にさらっと文字を書き連ねる。


「えっと? 『もう二度と、無断で麗華の部屋に行きません』」
「ここに名前とサインしろ」
「これじゃ今日も行けなくない!?」
「気づいたか」
「こんなのダメダメ!」


ビリビリと破り捨ててしまう。


「本当に今日で最後にするから。ね?」
「断る」
「どれくらいの断りメーター?」
「受信料を払うくらい」
「……よくわかんない」
「とにかく、もうダメだ」
「なによ、麗華にちょっと疑われただけでやめるの?」
「勝手に部屋に入るのはよくないだろ」


鍵を開けてるのもオレだしな。


「…………」


俯く妙。

やっと納得したか?


「……とす……」

「なに?」

 



「ついてきてくれなきゃ、核兵器落とす!」
「また子供のようなことを。やれるならやってみろ」
「い、言ったなぁ!」


なにを思ったか、妙は携帯電話を取り出した。


「もしもし? 私、妙。今からミサイル発射してよ」


なんとも可愛らしい反抗である。


「えっと……私がいるとこの上空を通過させてくれたらどこに落としてくれてもいいよ。うん、よろしく」
「もうすぐ空をミサイルでも飛ぶのか?」
「飛ぶよ」
「じゃあ一緒に見るか」


そう言って窓を開け放つ。


「雲一つない快晴だな。いつミサイルが飛んでくるって言うんだ? ん?」

 

─────ォォォ。


「なんだ?」


唸るような音が、小さいが聞こえてきた。

 

────ォォォォオオオ!


「な、なんだなんだ!?」


一瞬、世界が暗闇に閉ざされる。

 

ゴオオオオオオオ────!


「…………アレ…………ミサイルか?」


屋敷の上空を一瞬で駆け抜けていった、一本の線。



 

「言ったじゃない」
「な、なんでミサイルを発射する権力をお前が?」
「倉屋敷は、国外の兵器開発に協力してるの。そのツテ」
「…………阻止だ! 阻止しろバカもの!」
「だって、麗華の部屋に行くのイヤだって……」
「行ってやるから今すぐ中止しろ!」
「ほんと!?」


などとやりとりをしている間にも、ミサイルは飛んでいく。


「ほんとだほんと!」
「わかった。じゃあ電話する」

間一髪のところで、ミサイルは軌道修正され海に落ちた。

実は爆薬も核燃料も搭載されてなかったらしいが、本当にミサイルを発射するとは……恐るべし倉屋敷。


……。

 

 

 

 

 

 

 

武力行使により屈服させられ、心とは反対に麗華の部屋の鍵を開ける。


「……ん?」

 



「どうしたの?」
「いや、これは……昨日までとドアノブが違うな」
「開けられないの?」
「問題はない。仕組みは同じものだからな。しかし……」


オレはこの屋敷に来たときのことを思い出す。

食堂のドアノブを握った瞬間、全身に流れた電力。

そんな仕掛けがないとも限らない。

 

「やっぱりやめておいた方が?」
「携帯携帯っと」
「開ければいいんだろ開ければ」


どうなっても知らんぞ。


……。

 

 

 

 

どうやら、電力の仕掛けはなかったようだ。

 


トトッ。

 

 

 

寝床にいた二匹が駆け寄って来た。

いつものように取り付けてくれと言ってるんだろうか。


「じゃ、付けるね」
「…………」


オレは部屋を見渡して、変化がないか考察する。

ドアノブを変えただけじゃなく、カメラの設置をしてるかも知れない。


「仮に見つけたところで、どうすることも出来ないけどな」


『おはよう妙』


「おはよっ」

「なんだ、名前を覚えられたのか?」

「えへへへへ。これも愛情の賜物かなっ」


『覚えないと、つねるんだもん』


「愛情ねえ……」


『また麗華の留守か。やれやれ』


「そう言うな。多分今日が最後だから」


『ようやく麗華と話せる、と?』


「解釈的には、繋がらなくもないが……。判断するのはこっちのバカだからな」

「もう、バカバカ言わないでよ。海斗も同じじゃない」

「一緒にするな」

「五十歩百歩だって」

「…………」


そんなショックなことを言われると切ない。


「じゃ、海斗は退室しててね」

「なに?」

「今からこの子たちと話があるから」

「オレはただの鍵開け要員か」

「ばいば~い」

 

……。

 

 

 

「あれ早いな?」

「よう、見張り要員」

「?」

「オレは部屋に戻ってるから」

「妙ちんは?」

「その内出てくるだろ。鍵を閉めるときに呼んでくれ」

「わかった」


……。

 

 

 

「ふぅ……」


──コン、コン……。


「ん?」

 

 

「海斗ー」

「早っ!」


部屋に戻って数分後、妙がやって来た。


「って、なんだその胸に抱いてるのは……」

 

 

 

『どうもー、カナタですー』

ソナタだ』

『そう言えば最近、肌寒くなってきましたよね』

『もうすぐ冬だからな』

『つい最近は雪も降りましたしね』

『雪はまだ降ってないだろう』

『それが降ったんですよ。ほら僕の顔みて下さい』

『どれどれ?』

『ほーら、白い粉雪』


──!

 



『それ乾燥肌やがなっ』

 

『どうもありがとうございましたー』
『どうもありがとうございましたー』

 

 

 

 

「…………」


「どう?」

「オレを追い出したのって、それを仕込むためか?」
「うん。世界初、チーターの漫才」
「こいつら絶対意味わかってないだろ」
「面白かった?」
「漫才のネタは腐ってたが、チーターの漫才ショーを開けば大もうけ出来るな。と言うか部屋から連れ出すな」

「いいじゃない。逃げないって約束したし」
「そういう問題じゃない。もし、オレや侑祈以外の人間に見られでもしたら……」
「さっき十人くらい使用人とすれ違ったよ?」
「…………」

 

 

「皆、こんなふうに笑ってた」


と言って、満面の笑みを見せる。


チーター可愛いからね」
「いや、それ苦笑いか作り笑いだ」

 

『ここが海斗の家か。麗華と同じだな』

『匂いは全然違うね』


「一緒だったら怖いだろ。いいから連れて戻れ。しっしっ」


『わー、こっちのベッドもふかふかだー』


ぼよんぼよんっ。


「こら、なに人様のベッドで飛び跳ねてやがる」

「いいじゃない。可愛いから」

「可愛けりゃ世の中許されるのか?」

「そうでしょ?」

「……悲しい世の中だぜ」


『うわわーい』

『こらカナタ。あまり暴れるんじゃない』


ぼよよよーん、ぼよーん。


「お前も飛び跳ねてるだろうが!」


『私としたことが……つい無邪気な姿を』


ぼよーんぼよーん。


「それでもやめようとしないのか」

「このチーター持って帰ったら気づくかな?」

「絶対に気づく」

「猫とすりかえておくとか」

「本気でバレないと思うならやってみろ」

「じゃ、じゃあチーター型ロボットを作るとか!」

「そこまで手間暇をかけるなら、普通にチーターを飼え」


本来ならチーターを飼うのも一苦労のはずだが。

 

 

「むー……」

「とにかくおバカな会話をする前に部屋から出ろ」

「じゃあ海斗も行こうよ」

「テメェが追い出したんだろうが」

「根にもつタイプは嫌われるんだからね」

「うっせぇ」


最近少し優しい(?)感じになった妙はどうも扱いにくい。

補足させてもらうと、それまでの妙も扱いにくい。

つまり、こいつそのものが大変だってことで……。


『ぶつぶつなにを言っている』


チーターに突っ込まれた。


……。

 

 

 

「それで、いい加減聞き出すんじゃないのか?」

「そうだね。そろそろ、麗華の弱みが欲しいし」

 


『弱み?』

 

 



「あっ──」

「バカ……」


本当にバカだ。

思わず頭を押さえてしまう。

頭痛の超能力が目覚める日は、そう遠くないかも。



「よわ……弱気を助け強気を挫く、って言ったの!」


『どういう意味?』


「さ、さぁ? とにかく、あなたたちが知ってる麗華を教えてよ」


『僕たちの知ってる?』


「どんなことでもいいんだけど」


『どういうことかな?』


『普段私たちと接している麗華を知りたいそうだ』

『んと……とっても怖いよ。怒ったときは、ソナタ泣いて謝るもんね』

『よ、余計なことをっ。泣いたりなどしないっ』


真っ赤になって否定する。(見た目は変わらないので勘)


「相当怖いみたいだな」


『ご飯こぼすと叩かれるよ』


「虐待だね」

「その様が浮かぶな」

「麗華に飼われるのがイヤになったら、いつでも言ってね」


『イヤになんてならないよ』

『私たちの主は麗華だけだ』


「う……なにこの絆。悔しいけどウルッとくる」


しっかり教育してるんだな。

完全な主従関係が出来上がっている。

仮にもチーターだぞ。


──コン、コン。

 

 

「侑祈?」

「どうしたのかな?」

「まさか、麗華が戻って来たんじゃないか?」

「そんなはずないよ。だって夕方まで源蔵さんと出かけるって……」
「それブラフなんじゃないか?」


オレは急いで扉に寄り、そっと扉を開く。


……。

 

 

 

「また奇遇ね、侑祈」

「そそそそソースですね! 麗華お嬢さまは夕方まで、出かけてるかと……ハハハ」
「ちょっと忘れ物したのよ」
「俺が取ってきましょうか? ね?」
「どこにあるか説明するのも大変だし、遠慮するわ」
「じゃあまた、俺と散歩でも」
「どいて」
「で……でも……」
「どきなさい」
「は、はひ……」


……。

 

 

 

 

「くっ……やっぱ勘づいてやがったな!?」


やばい、こっちに来る!

 

 

「隠れるぞ!」

「か、隠れるってどこに!?」

「ベッドの下に隙間があるはずだ!」

「わ!」


引き込むようにして、ベッドの下に滑り込む。

そのついでに、ソナタとカナタに付けた送受信機も外しておく。

今バレたらマズイことになるからな。


「ちょ、体が当たってるっ!」
「仕方ないだろ、はみ出す……」
「でもっ!」
「静かにしろ。見つかったら殺されるぞ!」
「うー!」


……。

 

 

 

 

「…………」


ガチ。


「…………」


ガチガチッ。


「鍵はかかってるみたいね……」

 

 

 

鍵を開く音がして、扉が開く。


「…………」
「…………」


オレは妙を抱きこむような姿勢で、静かに息を潜める。

ほぼ眼前に妙の顔があった。


「はぁう……!」
「っ」


指の先で妙の口元を塞ぐ。

 

 

「……ソナタ?」


物音に気づいたのか、不審な声を出す。


トトトト。


と、小さな音が床を駆ける。


「特に変わったことはなかった? なんて、聞いてもわからないわよね」

 

「…………」
「……は、は……」


小さく粗い息遣いが漏れる。


「……?」


まずいな。

極度の緊張のせいか、妙の頬が高揚していた。

この場合、なにを言っても聞こえない可能性が高い。

しかし今の状況ではどうすることも出来ない。

なんとか気づかれないでやり過ごせることを祈ろう……。


「は……ぁ……」


殆ど身体を動かせないオレたちは、ただジッと見詰め合っていた。

実際には、オレの視線はベッドの隙間。

麗華とチーターの足を見ていた。

だから、妙の動きに気づくのに、一瞬の遅れが生じた。



 

 

唇に、熱が触れた。

数多くのパターンの中でも、その範疇にすらなかった行動。


「……ん……」
「…………」

 

 

 

妙が目を閉じる。

身動きが取れないオレは、避けることも逃げることも出来ない。

本当に救いだったのは、この後すぐに麗華が退室してくれたことだった。


…………。

 

……。

 

静まり返った、麗華の部屋。

 

 

 

「…………」


顔を真っ赤にした少女と、それを見つめる二匹のチーター。


「お前……今キス……」

 

「ち……ちが……!? 違うんだから!」


──!



 

 

 

「……違わないだろ」


部屋の中には、静けさだけが残った。

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ、うそうそうそぉーっ!」


ぼふ、ぼふぼふぼふっ!



「私……とんでもないこと、しちゃったよぉっ! あ、あぁ……きききき、キスなんて……ゲットゲットゲットゲットって頭の中で誰かがゲットだぜーって叫んでたからー!! どーしよー!!!」


…………。

 


……。

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は大変だったな」


朝食の時間、眠そうに座っている侑祈に声をかける。



 

「ん-? なにがぁ?」
「麗華を引きつけておいてくれただろ?」
「……?」


理解してないようだ。

どうやらまだ、半分夢の中か。


「一つ聞きたいんだが、いいか?」
「ん-?」
「あいつ……妙って、結構軽かったりするか?」


お嬢さますべてが、全員箱入り娘だとは思ってない。

事実何人かは、軽い気持ちで遊んでる生徒もいるだろう。


「そういうタイプには見えないが、一応確認したくてな」
「確認……するまでもないんじゃない? 妙ちんは軽いよ」
「そうか。だったらそれほど、気に留めることでもないか」


なにかの事故だったのかも知れない。


「……やや強引か」


距離が近かったとは言え、意図せずしてキスすることなどありえない。


「…………」
「そんなこと聞いて、どうしたんだよ」
「別に」

「まさか海斗……よからぬことでも考えてる?」
「考えてない考えてない。ところで、もう妙は起きたのか?」
「まだ寝てるよ。寝起き悪いから」
「朝食は?」
「妙ちん朝は抜くから……って、なんで妙ちんのことばっか」
「取り立てて意味はない」
「怪しいな。嘘発見器にかけるぞ?」
「まだ完璧な発見器は作られてないだろ」
「そうだっけ?」
嘘発見器の使用を頻繁に行ってより優れた物を作ろうとしてる米国ですらまだ本格的な発見器を作れてないしな」
「へー」

 

 

「相変わらず、ウンチクだけは知ってるんだな」

「本を読んだだけだしな」

「それが、僕らボディーガードの役に立つかと言えば……」


呆れる仕草を肩を持ち上げて見せる尊。


「別にいいんだよ。オレがなにに興味持とうと自由だろ」

「せめて、ボディーガードとしての実力が二流なら、もう少しは締まったセリフに聞こえるんだが」

「朝から突っかかるな尊」

「どうやら僕は、体たらくな人間を放っておけないらしい」

「単純に上から目線で見たいんだろ?」

「海斗に関してはそうかも知れない」

「お前らって出会ったときから仲悪かったよな」

「実力もないくせに、息巻いていたから当然だ」

「謙虚の塊みたいなオレにそれはない」

「そこは否定させて。すんげー不良だったじゃん」

「侑祈まで言うか」

「もっとも、僕の実力を知るまでだったが」

「薫も凄かったけど、尊は圧倒的だったなー」

「当然だ」

「実力も態度もデカかった」

「うむ」

「でも風呂場では小さかったよな」

「うるさいっ! 関係ないだろ!」

「いつもこっそり脱いで、こっそり入ってた」

「別にこっそりなんてしてない……偶然だ」

「腰にタオル巻いてたじゃないか」

「最低限のマナーだ」

「まぁ、フルチンが正しいとは、言わないけどさ」

「確かに。別に男同士で見たいわけじゃないな。だが浴槽の中までタオルを付けっぱなしにするのは、ややマナー違反じゃないか?」

「……覚えてないな」

「汚っ!」

「じゃあ今日は一緒に風呂でも入るか?」

「やめろ」

「男同士だからいいじゃねえか」

「そうだそうだ。アソコの引っ張り合いしようぜ」

「気持ち悪いっ!」

「あぁ、皮が伸びるから?」

「違う! 男同士で気持ち悪いと言ったんだ!」


ま、食事前にする話じゃないわな。

周りの使用人たちはやや引き気味だ。

 

 

 

「じゃあ、相手が女の子だったら?」

「そ、それは……って、バカなことを言うな!」

「顔赤いぞ?」

「くっ……! これだから海斗と侑祈が一緒なのは迷惑なんだ。第一、どうして僕にばかり言う」

「と言うと?」

「風呂でこそこそしてたのは、薫も同じだろ。なのに、どうして僕だけ責められなければならない」

「いじりやすいから」

「だな」

「ふざけるな! 僕こそ言いたかったんだ。薫など前屈みなだけでなく、胸部まで隠していただろ」

「あー、あのバスタオルな」


薫は一人バスタオルで身体を隠してたからな。


「あの色っぽい姿に、何人の男が騙されたやら……」

「やたら薫のそばに寄ってくる男が多かったな」

「全部睨まれてたけど」

「いつも海斗の背中に隠れてたじゃないか。その方がよっぽどマナー違反だろう」

「そりゃ、ホモに狙われてたんだから仕方ないだろ」

「確かにね。絶対何人かは男色に目覚めたよな」

「一説ではその、貴様とデキてると言う噂もあったぞ」

「そうなのか?」

「それは俺も聞いたことある」

「ないない。ルームメイトだから助けてただけだ」


訓練校の男どもに、マジで薫は狙われてたからな。

男女見境なく飢えてるのも、寂しいもんだ。

ルームメイトが恐ろしい目に遭うのは、さすがに放っておけなかった。


「そもそもそれが怪しいだろう。不親切の代表じゃないか」

「勝手に代表にするな」

「そうだそうだ。ちゃんと代表の前に日本って付けろよ」


どうやら尊は、オレをからかう対象にすり替えたいようだ。


「まったくもって、貴様は変な男だ」

「イケメンだからな」

「自分で言うな自分で。みっともない」

「でも、ボディーガードって職業じゃ、なかなか女の子と知り合えないよなぁ」

「そんなことないだろ。メイドなんて沢山いるだろ」

「ツキちゃんくらい可愛ければいいけど、メイドってどうもオバサンが多いんだよなー、ウチの場合」

「外見が良ければいいのか?」

「まったくだ。あのメイドのどこがいいと言うのか……」

「うわ、二人の意見が一致した!?」

「珍しいこともあるものだな」

「確かに」

「いいと思うケドなぁ、純情で大人しそうだし」


いや、お前が思うよりずっと純情でも大人しくもないぞ。

 

「せめてチューくらいしたいぜ。かと言って、お嬢さまとチューなんて出来ないし」

「…………」

「当たり前だ。なに血迷ったことを」

「わかってるって。まだ死にたくないし」

「…………」



「おい、顔が真っ青になっているぞ、どうかしたか?」

「ほんとだ、ブルーマウンテンみたいだ」

「ブルーマウンテンは山だろ」

「まさか、貴様麗華お嬢さまに不埒なことを……」

「してねーよ」

「じゃあまさか……彩お嬢さまに!? さ、最近どうも視線で貴様を追われてると思ったら……」

「そうなのか?」

「な、なんでもない!」

「実は妙ちんだったりして」

「それはないだろう。話す機会もないだろうし」

「当たり前だ」

「最近結構話してると思うケドなぁ」


尊が別のクラスで少し助かったな。


…………。

 

……。

 

 

 

 



「……もうこんな時間か」


夕食のあと、軽く読書するつもりだったが、気づけば1時間近くが経過していた。

部屋に戻ろうとベンチを立つ。


……。

 



「あ……」


偶然……いや、違うか?

妙が歩いて来たのは、オレの部屋があるところからだった。

近くの侑祈に用があったのかも知れないが、なんとなく違う気がする。

とは言え、オレから話かけることはないので、そのままスルーすることにした。



 

「ちょ、ちょっと待ってよ」
「なんだよ」
「……別に」
「昨日のことか?」
「きき、昨日のキスってなによ!」
「そこまで言ってないだろ」
「う……」
「特に気にしてない」
「え?」
「オレにとってもお前にとってもそういうことにしておけばいいんじゃないのか?」
「……そ、そう。それよ! 勘違いされたら困るし……」
「ああ。わかってる」
「…………」
「用がないなら部屋に戻るぞ」
「あ、う、うん……」


……。

 

良かった。

どうやら、まったく気にしていないみたいだな。

……と、普通なら思えるんだが。

どうにも人の心を読もうとする感覚が邪魔だ。

どう考えても、あいつ気にしてるじゃねえかよ。


「侑祈にだけは、相談しておくか?」


…………。

 

……。

 

 

 

 

「……なんだよ海斗、こんな時間に」
「悪いとは思ったんだ」
「そりゃ少しは罪悪感に目覚めるでしょうよ。寝てる人様の腹を思い切り殴って起こすんだからさ。文字どおり、叩き起こされたってやつ? 部屋に来てくれとか言っていなくなるし……」
「ソフトに起こそうとした結果だ」
「硬そうなソフトだなぁ……。まぁいいや、俺も少し海斗に話があったし」
「お前から話すか?」
「海斗からでいい」
「オレの話ってのは、ま……あれだ」

「なんで俺から距離を取るの」


さり気なく後退してるつもりだったが、バレた。


「飛び掛かってくる可能性を考慮しただけだ」

「なんだそれ」

「オレの話ってのは他でもない、妙のことだ」

「朝から妙ちんのことばっかりだな」

「ま、な」

「まさか妙ちんに惚れたとか?」

「なにをバカな、オレは──」

 

 

 



脳裏をさぁっと、あのときの妙が過る。


「…………」

 



「マジ?」

「いや……そういうわけじゃない。ちょっとな」

「なにそれ、歯切れ悪っ」


ガンッ!


「自爆!?」


オレは自分の額を壁にぶつける。


「ちょっと正気を失いかけてたみたいだ」

「正気じゃなくて意識失うって!」

「とにかく、妙のことだ」

「お、おう」

「あいつはその、今までに男と付き合ったりしたことは?」

「あるわけないじゃん」


即答だった。

今朝軽いと答えてたのは、体重かなにかか?

寝ぼけていたみたいだから、そう考えるのが妥当か。


「ガチガチの箱入り娘」

「やっぱり、そうか……」

「なぁマジな話とかしたくないけど、もしかしてもしかすると、妙ちんが気になるのか?」

「気にしだしたのはオレじゃなくてだな」

「妙ちんの気持ちは関係ないっしょ」

「……即答だな」

「ボディーガードの海斗が、お嬢さまに気持ち引っ張られちゃってどうすんのさ」

「別にそこまでは言ってない」


ちょっとトラブルがあったから、引っかかるだけだ。


「俺は海斗が好きだぜ? だから、嫌味なことって言いたくない」

「わかってる。お前にとって妙は大切な存在だからな」

「そうじゃなくてさ」


呆れたようにため息をつく。


「後悔するのは海斗だって言ってんの。今話してるのは、海斗が妙ちんを好きかどうかって問題じゃないんだぞ? わかってるか?」

「…………」


こいつに出会って1年と少し、初めて説教される側になっていた。


「ボディーガードは、プリンシパルに信頼される存在だ。だけど、絶対に深入りはしちゃいけない。異性同士なら尚更ね。それ以前に、海斗のプリンシパルは麗華お嬢さまだし」

「そうだな……ちょっと気にかけすぎてた」


そうだ。

妙がなにかを考え、思っていても、オレはその感情に流されてはいけない。

当たり前のように教えられたことだ。


「ちょっとどうかしてた」


こうして侑祈を呼んで相談する前提が間違っていた。


「見直した、と言うか驚いたぜ侑祈。授業なんてまともに聞かないくせに、そういうことわかってるなんてな」

「まぁね。俺って天才だし」


冷たくあしらう必要はないが、これからは流されないようにしないとな。


「俺も少し驚いた」

「ん?」

「同級生の中でも、海斗や薫は一番そういったこととは無縁だと思ってたからさ」

「オレ自信、こんなに感情が動くとは思ってなかった。気づかない内に、妙な人間臭さを覚えたもんだぜ」


一年目のオレなら間違いなく気に留めてもいなかっただろう。


「よりにもよって、妙ちんに乱されてるし」


ケラケラと笑う。


「悪かったな」

「ちょっと好きになりかけてた?」

「別に」

「怪しいなぁ」

「なんで、あんなうるさいのを好きになるんだ」

「理由なんてわかんねぇよ。恋愛ってそんなもんじゃん?」

「素人がよく言うぜ」

「ぶっちゃけたこと言うと、妙ちんは海斗が好きだと思う」

「……またお前は……。折角話が終盤に向かってたのに引き戻すなよ」

「暴走しないかな? と思って」

「暴走させたいのか」

「禁忌を破って抹殺されるのは、少し興味が」

「ならお前が破れ」

「まだ死にたくないし」

「そろそろオレの話は終わりにしようぜ」

「だな。でも、最後に一つ言わせてくれ」

「なんだ、改まって」

「今忠告したのは、ボディーガードとして、そして友だちとしての俺だ。恋愛はダメだとわかっててそれでも、プリンシパルを好きになっちゃうことも……あると思うんだ」


今までで一番真剣な目だった。


「そのときは人生をギャンブルしてみるのも、いいんじゃないか……ってね」

「それは、なにとして言ってるんだ?」


ボディーガードとしてでも友人としてでもない忠告とは……。


「人として、かな」

「…………」


ロボットだろ、お前は。

吹きそうになったのを必死に抑えた。


「んじゃそろそろ部屋に戻るわ」
「お前も話があったんじゃないのか?」    
「え? そうだっけ?」
「言ってただろ」
「…………うーん……思い出せない」
「だったら、思い出したら来い」
「そうする。んじゃなお休み」
「ああ」

 

 

 

「暴走ね……」


余計なこと言いやがって。


「んなことしたら、困るのは妙だろ」


やや侑祈を恨んでから寝ることにした。


…………。

 

……。

 

 

 

 



「ねえ侑祈」

「…………」

「ちょっと、聞いてるの?」

「え?」

「え? じゃない。ちゃんと人の話は聞いてよね」

「あぁうん、聞いてた聞いてた」
「じゃあ、なに言ってたか当ててよ」
「どうやったら友だちが出来るかで悩んでるんでしょ?」
「違うし!」
「友だちゼロじゃん」
「ぜ、ゼロだけど違うものは違う!」
「他に悩みなんてあったっけ? あ、貧乳か」

「それも違う!」
「大丈夫、貧乳はステータスだから」
「そうなの? か、海斗も?」
「あいつは胸が大きい子が好きそうだなぁ……」
「ガーン」
「知らないけど」
「って、貧乳のことでもないってば! もっと乙女チックな悩みを抱えてるんだからね!」
「乙女な問題なら、乙女に聞けばいいじゃん」
「へっ?」
「麗華お嬢さまとか彩お嬢さまとかにさ」
「そんなの、相談出来ないし……」
「友だちじゃないもんな」
「うるさーい!」
「でもほら、パジャマ会なんか開いたらいいじゃない」
「パジャマ会?」
「女の子同士、パジャマで夜に集まってお喋りするんだよ。そういうのって結構、仲が深まったりするし」
「そうかな?」
「訓練校時代、パジャマじゃないけど私服で集まって語り合ったりしたし」
「そしたら、仲良くなった?」
「うん」
「そ、そっか……パジャマ会かぁ……」
「もっとも、そういうのは皆をまとめられる人が話を持ち出さないと成立しなかったりするけど」



 

 

「パジャマ会か……」
「聞いちゃいないか。にしても、妙ちんからも海斗のことばっかりだな…………」

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

──昼休み。

 

 

 

 

 

「か、海斗……」


もじもじしながら、妙がやって来た。



 

「どうせ今日も一緒に食べるって言うんでしょ?」

「さっそく食堂に行こうぜ」

「いや……今日は別々に食べることにしようぜ」


「えっ」


「麗華が一緒に食べたいって言うなら話は別だが」

「むしろ邪魔」

「なら決まりだな」

「うわ冷たくないそれ」

「そ、そうよ。一緒に食べるくらいいいじゃない」

「麗華が嫌だって言ってんだ。オレに文句を言うな」

「…………」

「行こうぜ」


「そうね」



「ちょっと……待ってよ……」


……。

 

 

 

「あんたどうしたの?」
「別にどうもしてない」
「今日、朝からひと言も妙と話してなかったでしょ」
「さっき話した」
「ずっと侑祈の顔しか見てなかったじゃない」
「お前はオレを見すぎだ」
「なんかあったの? 鬱陶しいくらいトゲがあるけど」
「……妙とは最近話すことが多かったから、少し距離を置こうっつーボディーガードとしての配慮だ」
「配慮ね……」


……。

 

 

 

 

 

オレたちは静かに昼食をとった。

今まで、麗華とどんな風に話していたかよく思い出せない。

あいつらがいるだけで、どれだけ明るい空気が出来ていたかよくわかった。


……。

 


──放課後。

 

「…………」

 

 

 

「こっち見てるわよ?」
「関係ないっての。いちいちオレに言うことか?」
「確かに」

 

「あ……」


……。

 

 

 

 

 

「けど、あんたも意外と普通なのね」
「普通?」
「普段は冷たい印象を与えるくせに、妙には優しいじゃない」
「いつオレが優しくなったよ」
「自覚がないし」
「バカなこと言ってんじゃねえ。スカート下ろすぞ」
「やってみてもいいけど、間違いなく禁固刑よ?」
「麗華程度で禁固刑は嫌だな」



 

「妙くらいなら禁固刑も覚悟?」
「なんでそこで妙」
「ずーっと後ろ気にしてるくせに」
「お前はお嬢さまやめて、ボディーガード目指せ」
「洞察力も、捨てたものじゃないでしょ」
「ムカつくけどな」


背後からゆっくりついてくる妙と侑祈から逃げるようにオレは麗華を急かして屋敷へ帰った。


……。

 

 

 

 

「と言うことで、第一回パジャマパーティー!」


「…………」

「…………」

「…………」


「一度、こういうのしてみたかったのよね~」

「あ、あの……どうして、私の部屋で?」

「私の部屋だと、あの子たちが寝てるし。ツキの部屋でこんなことするわけにもいかないでしょ? それにしても……妙も子供ね。パジャマパーティーなんて」

「べっ別にいいでしょ! 楽しそうじゃない」

「私は眠い」

「可愛くないわね。外見だけじゃなくて心も」

「…………私、お邪魔だと思います」

「行かないでツキっ!」

「しかし、お嬢さまたちのお邪魔になるかと……」

「もしお姉さまと妙さんがケンカされたらと思うと、ハラハラして」

「それは危険ですね」


「それで、なにを企んでるの?」

「た……企むってなに?」

「あんたが無意味にこんなことするとは思えない」

「やだな、親睦を深めようと思っただけで」

「嘘つきは、舌を抜かれるわよ」

「なによー!」

「お、落ち着いて下さいね二人とも」

「言い出せないことがあるんじゃないの?」

「う……鋭い」

「あんたと彩は、わかりやすすぎるのよ」

「私もですかっ!?」

「どっちも自覚がないところとかね」

「私はどうですか」

「あんたはわかりにくすぎ」

「がっかり」

「全然がっかりしてないじゃないの。私は嫌だけど、彩とかツキなら、真剣に答えてくれるんじゃない?」

「なにか悩みがあるんですか? 私で良ければお聞きします。力になれるかどうかは、わかりませんが」

 

 

 

 

「え、えと…………皆には好きな人とかいるのっ!?」

「…………」

「…………」

「なんともいきなりな質問ですね」

「…………」

「…………」


「なんとか言ってよ!」

 

 

 

「なるほど。なんとなく想像はしてたけど……。けど少し興味あるわね。彩、どうなの?」

「わ、私ですか!? いませんいません!」

「その割には慌ててるわね」

「ですからいませんっ……。男性として、気になる方はいますが……ごにょごにょ」


「それって好きってことじゃないの?」


「いえ……多分、違う、と……思います、が……」

「はっきりしないわね」



 

「だって、わからないんです。気になってても、お話する機会は少ないですし……。私なんかが話しかけても、ご迷惑だと思うし……」

「ねえねえ、誰のことかわかる?」

「彩が知り合う男なんて、妙以上に限られてるから」

「誰々? ワクワク」

「聞かない方がいいんじゃない?」

「ねえ誰なのよ? 気になってる人って。私も知ってる人かな?」

「そんなこと言えませんっ!」

「ケチー」

「じゃああんたはどうなの?」

「へっ?」

「気になる人がいるから、こんなこと言うんでしょ?」

「わわ、私は……えへへへ」

「笑って誤魔化さない」

「…………ま、まぁ、ほら……ね?」

「全然わからないから」

「むー」

「一応クギを刺しとくけど……二人とも好きになる人は身分を同じにしなきゃダメよ?」

「…………」

「…………」


「ふぅ……重症そうだけど」

「やっぱり、ダメだと思う? 身分が違う人」

「普通に考えれば当たり前って言われるわよ」

「…………」

「親ってのは、少しでもいいところに嫁いで欲しいと思うものだし。今の時代、平民と富豪の差は、天と地ほどあるわ」

「むしろ宇宙と地中海ですね」

「そういうこと」

「そこはほら、なんとかなんないかな?」

「ならない」

「ズバッと三振……」

「お姉さまは、やはり同じ身分の方を好きになってるんですか?」

「勝手に現在形にしないで。生憎だけど私の心を動かせる男に出会ったことないし」

 

 

 

「私は、海斗さまだと思ってました」


「っ!」

「っ!」


「……?」


「どうしてそう思うの?」

「私が、お話しても?」

「別にいいわよ」

「今まで、麗華お嬢さまのボディーガードを志望してきた方は、内外問わず沢山おられました。ですが唯一許したのは、海斗さまだったので」

「確かに特別って意味じゃ間違ってないけど。あくまでボディーガードとして特別なのよ。そもそも、一番恋愛しちゃいけない相手じゃない」

「ボディーガードは危険ですか」

「そうなんだ……」

「…………」


「私たちはまだいいわ。でも、事実が公に出たらボディーガードは死ぬわね」

「ま、前から思ってたけど、どうしてダメなのかな? お嬢さまが認めたんだったら、いいと、思うケド……」

「私も詳しいことは知らない。単純に考えれば、資産家の娘を預ける親の立場上ボディーガードに奪われるなんてもっての他、ってことなんじゃない? ボディーガードがプリンシパルと恋愛しちゃいけないってのはルールとして絶対の位置にあるけど正式な規則としては禁じられてないのよ?」

「そうなんですか?」

「これは佐竹に聞いた話だけど、過去に数例だけ認められたことがあったかららしいの」

「ど、どうして認められたんですか?」

「簡単なことよ。恋愛しちゃいけないってルールは、親がそのボディーガードを認めてないからであって……親さえボディーガードを気に入れば、荒波が立つとしても、事実上は問題ないってこと」

「なるほど……確かに」

「まぁ、親が認めるケースなんて例外中の例外ね」

「ボディーガードにだってステキな人はいるよ」

「心当たりがある言い方ね?」

「も、ものの例えよ、例えっ」

「親ってのは外見や内面だけじゃなくて、相手の資産、世間体、果てには遺伝子まで気にするから」


「お嬢さまも大変なんですね」

「そういうあなたはどうなの?」

「私ですか」

「普通の恋愛してたりするの?」

「はい。長くお付き合いしてる方がいます」

「へぇー」

「山田さんって言うんだよね?」

「そうです」

「なんかパッとしない名前……」

「ラブラブみたいよ」

「やっぱり、彼氏がいるって嬉しい?」

「そうですね」

「いいな……」

「だったら色々探せばいいんじゃない? 倉屋敷の名前を出せば、男は沢山言い寄ってくるわよ。容姿と胸に問題がなければね」

「胸は私の方が大きいもん!」

「私と比べないで」

「むー」


……。

 

 

 

 

「それじゃ、そろそろお開きね」

「お休みなさい。お姉さま、妙さん。ツキ」

「お休みー」

「お休みなさいませ」

 

……。

 

 

 

「お部屋までお送りします」

「いいわ。少し妙と話したいことがあるから」

「?」

「わかりました。お休みなさいませ」

 

 

 

「話したいこと?」
「あんたもあからさまね。海斗のことでしょ?」
「えぇっ!?」
「屋敷にまで乗り込んでくるくらいだから、注意したって聞かないことはわかってる」
「うぅ~」
「でも、もし自制しても止められないんなら、ちゃんと覚悟して恋愛しなさいよ」
「覚悟……」
「あいつの人生を、壊しちゃうかも知れないってこと」
「…………」
「じゃ、お休み」
「え、あ……うん……」


……。

 

 

 

 

「……ま、意味ないでしょうね。海斗の人生考えて自制出来る性格なら、今頃もう少しまともに成長してるだろうし」


…………。

 

……。

 

 

 

 

 

 

「マジでどうしたもんか……」


侑祈に相談した、その次の日。

オレはまたも同じことで悩んでいた。

今朝学園に行くとき。

あるいは教室にいるとき。

オレと妙は視線が交差しては、すれ違っていた。

単なる気まずさとは違う。

それはオレが感じ取れる以上に妙も感じているし、そして周りにも異変を感じ取らせてしまっていた。

憶測が飛び交っていたとしても、おかしくない。

これ以上誤解が広まっていくのは、正直まずい。

いっそのこと直接伝えるか?

オレたちの間に、特別なことはなにもないと。

だが、間に受け取られないってことも考えられる。

当事者からの発言に信用性がないのは、当たり前だ。

それならいっそ、ここを出て行く……。


「…………」


なんでオレが逃げ出さなきゃならないんだよ。

鬱陶しい。

 

 

 

どこまで懐っこいんだ。

もう少し相手の態度から意思を汲み取れ。

いつもニコニコしやがって……。


「…………」

 

 

──コン、コン……。

 


こんな時間に、誰だ?

まさか妙か?

オレは無言で息を潜めた。


…………。


「私よ」


「なんだ、お前か」


「入ってもいい?」


「ああ。ちょっと待ってな」


鍵を開け扉を開く。



 

「珍しいわね、あんたが鍵かけてるなんて」
「別に……それでなんの用だ? 夜這いだったら相手してやるけど」
「それは妙にしなさい」
「アホか」
「…………」


麗華はクビを傾げる。


「もしかして、あんた、妙のこと好きじゃない?」
「あぁ?」
「ごめん。少し表現変えるわ。妙と付き合ってるって……つもりはない?」
「…………」
「無言は肯定ってことでいい?」
「……別に、付き合ってない」

「なるほどねぇ。ちょっと話してみなさいよ」
「なにを」
「あんたたちの、これまでの経緯。妙の口から聞いてもいいんだけど、一方的なことしか伝わってきそうにないし」
「…………」


……。

 


オレはこれまでに何度か妙と二人きりになったこと……麗華の部屋に侵入していたという事実だけを除き、すべてをありのままに話した。

オレは溜めていたものを吐き出したかった。

初めて経験する感情に、戸惑っていたのが本音だ。



 

「確かに、ちょっと付き合ってるとは言いにくいわね」
「だろ?」
「あんたら二人の問題だけなら、別に首を突っ込もうなんて思わないんだけど。あんたが妙を避けることで私に不利益が生じるし」
「なんかいい解決策があるのか?」
「直接言えば?」
「それは、そうだな……。だけどなんて言う? 別になにも始まってないんだ。元の関係に戻ろうなんて言って、伝わるか?」
「伝わるわよ。あんたがマジで言えば」
「…………」
「嫌なんじゃないの? 妙との関係が終わるのが」
「別に。ただ、少し目覚めが悪くなりそうなだけだ」
「そんな調子じゃ、いつまでも現状は変わらないわよ? あの子は、多分0か100かしかない。友だちか……赤の他人か。恋人か……赤の他人か」
「…………」
「一応、一年以上の付き合いだしね。友だちの出来なさぶりを見てると、わかるのよ」


なんだかんだ言って、麗華なりに妙を心配しているようだ。


「正直言えば、妙がここで暮らすようになって、あの子も結構可愛いとこあるなって、思ってきたの。私としては、ハッキリさせて欲しいところね」
「スッパリと言え……か」
「あんたが、本当に妙を好きじゃないなら」
「……少しだけ考えさせてくれ。オレは、少しわからなくなってる。妙を可愛いと思う気持ちがないわけじゃない。ただ、身体のどこかでなにかが引っかかってる」
「今日の晩ご飯に鯛が出たわね」
「魚の骨は引っかかってねえ」
「いいわ。少し考えてみて。それから結論を出せばいい」
「……お前、お節介?」
「言ったでしょ。私に不利益が生じるって」
「そうだったな」
「じゃ」


立ち止まることなく、麗華は部屋から退室した。

 

 

 

 

「…………」


オレはどうしたと言うんだ?

こんなにも悩んだことなど、今までなかった。

何故?

どうして?

 

 

 

付き合うことで、どんな悪いことがあるって言うんだ?

付き合わないことで、どんな悪いことがあると?

僅か先の視界が霧に覆われて見えない。

答えは、まだ出ない。


…………。

 

……。

 

 

 

 

教員「全員揃ったようだな。……ふむ、殆どの者が希望と自信に満ち溢れた顔をしてるか。当然と言えば当然だが。まずは歓迎しよう。ようこそ憐桜学園へ」


それは、俺の中に眠る記憶でも、随分古いものだった。

ほんの一年程度なのに、とても懐かしく感じる。

俺はボディーガードの訓練よりも、一緒に学んでいく同級生たちの方が気になった。

辺りを見渡して、誰と仲良くなっていくかを考える。

個性って意味じゃ、周りの人間は誰もが似た雰囲気。

教官を真剣に見つめて、これからの自分を想像してるんだろうか。

そんな中、たった一人、教官に目を向けない生徒がいた。

そいつは教官の話がつまらないのか、アクビをして、窓の外をジッと見つめていた。

だからなのか。

俺は、最初に友だちになるのはそいつにしようと思った。


…………。

 

……。

 

 

 

 

「に、ににに、逃げろ海斗ーーーー!!」

 

──!



 

「逃げろ海斗!」
「……ノックもなしに部屋に入りやがって……なんだ急に」
「来ちゃったんだよ!」
「生理が?」

「ううん、生理はまだこないの……」
「まさか」
「……3ヶ月、だってさ。いやいや、今こんなことやってるバヤイじゃないんだって!」
「事情を説明しろ。3文字で」
「えっと」
「わからんじゃないか」

「もう少し文字数くれってばよ! とにかく逃げろ! 今やばいって!」
「なにから逃げるんだよ」
「妙ちんのお母さんから!」
「……は?」


妙の母親から逃げる? オレが?


「寝惚けてないか?」
「今玄関口に来てて、海斗を出せって言ってんだよ!」
「なんで」
「そんなこと俺が知るわけないだろ! もし怒ってるんだとしたら、ヤバイことになるんだって」
「どんな風に?」
「核弾頭撃ち込まれる!」
「はいはい面白い面白い」
「ばっか、事実なんだって! 倉屋敷は核保有してんだから!」


そう言えば、前に妙がミサイルを……。

 

──「こら侑祈。なに秘密情報喋ってるのよ」



「ドキー!」


「…………」


侑祈の後ろから、若々しい声。

 

「ほらどいてよ。ちゃんと見えないでしょ」


侑祈を手で払い、声の主は影から姿を現す。



 

「やっほー」

「…………」

「…………」

「…………」

「なんだよ」


笑顔で固まった女に声をかける。



「く──」



 

 

「くりそつじゃなーーーーーい!!」
「お、おいっ!」


強襲ビンタか? などと一瞬思ったが、抱きつかれた。



 

「私よ亜希子! 覚えてる!?」
「知らねーよ、なんなんだアンタ」
「あーそっかそっか。初対面なのよね、私たちー」


凄い浮かれた姉ちゃんだな。


「暑苦しいから離れろ」
「いいじゃないのー。あーもう、信じられないっ!」


なにが嬉しいんだ、この女は。


「やっぱり妙と私は、逃げるのかなー?」
「妙と? あんた妙の知り合いか?」


そう言えばどことなく似てるな。


「あいつの姉とか?」
「やっだーお世辞まで上手いんだからー、このー」
「おいコラ、乳首を突くな乳首を」
「じゃあ……舐めてもいーい?」
「本当に舐めさせるぞ」
「あぁ凄んだ顔もカッコイイ……」
「侑祈。このイってる女は誰だ?」


「く、倉屋敷亜希子さんだよ……妙ちんのお母さん」

「…………」

「一児の母でーす」
「……マジで?」
「全然見えない?」
「あぁ、20歳そこそこかと思った」
「嬉しいなぁ、あなたにそう言われると」
「つーか、いい加減離れろよ」
「ずっとこうしてたいな」
「恋人同士かよっ」
「私未亡人だから、それでもいいけど?」
「…………」


一体、こいつはなにを考えてるんだ?

 

──「ちょっとお母さん、勝手に……って、なにしてるの!?」


「あらやだ、もう来ちゃったの?」


名残惜しそうにオレから離れる亜希子。

 

 

「あなたが朝霧くんをいつまでも連れて来ないから、来ちゃった。と言うわけで、帰りましょ」

「人の手を引いてなに言ってやがる」

「おかしい?」

「親子揃って意味不明な理屈を並べたがるな。なんなんだ一体」

「妙から聞いてないの? 朝霧くんをボディーガードにするって言ってたけど」

「それは知ってるが……」


──「お断わりさせていただいたんです、亜希子さん」



 

「あら麗華ちゃんじゃない。久しぶりね」

「一度しかお会いしたことがありませんが、覚えていただいているようで、光栄です」

 

「もー恥ずかしいから帰ってよお母さんっ」


オレたちの間には先日の一件があるため、互いに目を合わせづらい。

オレがやや、妙を避けてるところも重なって尚更だ。


「いやよ。朝霧くんを連れて帰るまで帰らないからっ」

「あ、あの……」

 

 

さすがの麗華も亜希子の発言に戸惑っているようだ。

ひょっとしてオレは、実験台として適合者なんじゃないか?

それで強引にでも引っ張って帰ろうとしている……。

などということすら考えてしまいそうだ。



 

「ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったわね。朝霧くんを見たら、ちょっと感極まっちゃってさ」

「どうして海斗を?」

「だって──」

 


──「それ以上のことは、禁句だろう。亜希子くん」



 

 

「え? あーーー! 源蔵くんじゃないの! ひっさしぶりー!」


「げ……源蔵くん……」

「…………」

 



「子供たちの前で、その呼び方はやめてくれないか」

「源蔵くんは源蔵くんじゃない! 直接会うのって、10年ぶりくらいじゃない!?」

「それくらいになるか。いや、全然変わらないな君は。ここではなんだ、私の書斎にでも来るかね?」

「そうしようかしら。この子も連れてっていい?」


そう言って、ぐいっとオレを引き込む。


「朝霧くんのことについて、色々話もしたいし」

「亜希子くん。気持ちはわかるが、娘たちの前だぞ」

「……そうね。仕方ないか」


パッと腕を離す。


「それじゃ、またあとでね」

「…………」


源蔵のオッサンは軽くオレを睨んだあと、オレたちを残し亜希子と出ていった。


……。

 

 

 

「どういうことか、説明しなさいよ妙!」

「ど、どういうことと言われても……」

「あんたのお母さん、頭おかしいんじゃない?」

「私だってわかんないよ。海斗の話をして喜んでたのはほんとだけど」

 

「あの喜びようは尋常じゃなかったですね」

「それに、うちのお父さまとも仲がいいみたいだし。……気になるわね」

「どこに行くの?」

「二人の会話を盗み聞きしてくる」

「おいおい」

「ちょっとダメだよ! 私も行くんだからね!」

「そっちかよ」


「二人とも、さすが大金持ちのお嬢さまだよな。度胸が据わってる」

「度胸って言葉が、とても軽く聞こえるぜ」

「俺たちも行こうぜ」

「本気か?」

「麗華お嬢さまも、妙ちんも、俺たちの守る存在なんだし」


なにから二人を守ろうと言うのか。


「仕方ないな」


億劫でしかないはずなのに、オレの身体が歩き出したのは、なにか得体の知れないものを感じたからかも知れない。


……。

 

源蔵オッサンのオフィスの前には、既に麗華と妙が扉に耳をあてるようにして待機していた。

だが、上手く耳にはいってないようだ。



 

 

「全然聞こえないよ……」

「防音だから、当然と言えば当然ね」


どこかマヌケな図だ。



 

「少しだけ扉を開けてみるとか」

「わ、あんたたちも来たんだ」

「少しでも開けたら、気づかれるんじゃない?」

「案外、中でくんずほぐれつしてたりして」

「くんずほぐれつ?」

「ちょっと少女チックに言うと、キスしてたりとか?」


それは意味が変わってくると思う。


「きき、き、キス!?」


しかも、よりにもよって今は禁止ワードだそれ。

 



「ありえないわね」

「例えばの話ですよ。ちょっと想像すると面白くないですか?」

 


「…………こんなのが妹なんて嫌!」
「…………こんなのが妹なんて嫌!」

 


ほぼ同時に、互いに指を指し合う。



 

「ちょっと待ちなさい。あなたのどこを見て姉って結論が導き出されるわけ?」

「やっぱり胸の大きさかな?」

「私は彩の姉よ? そんなの関係ないでしょ」

「ほんとは彩の方が姉だったりして。大きいし」

「舐めんじゃないわよ!」


「小さい争いだな。中身も発言も」

「まあまあ」

「とりあえず、確かめてみた方がいいわね」

「うん」


姉妹になるのがそんなに嫌なのか、麗華がノブに手をかける。


「ゆっくり回せば……」


ガチャ。

ビクッ!


予想以上の音に、オレを除く三人が敏感に反応する。


「…………」


息を呑んで、向こうから反応がないかを探る。

しばらくしても反応がないことから、まだ気づかれてないと判断した麗華は、ほんの一センチほど扉を開いた──はずだった。


「えっ……?」



 

「なにをなさってるのですかな?」


「佐竹!?」


……。

 

 

 

「まったく。人様の会話を盗み聞こうとは言語道断」

「ごめんなさい……」

「まあまあ、いいじゃないの」

「いや、これは我が家の問題だ」

「興味があったんでしょ? 私たちの会話に」


「……うん」

「はい……」


二人が、小さく頷いた。


「だって、当たり前じゃない? 二人にとって朝霧くんは大切なボディーガードなんだから」

「大切ではありませんけど」


そこだけはしっかりと突っ込むんだな。


「どうせなら、皆で仲良くって言うのもオツじゃない?」

「いいんですか?」

「源蔵くんはどうかな?」

「…………」


「私は反対です」


「佐竹」


予想外からの反論だった。


「彼女や、海斗にこの話を聞かせることは賛成できません。今後の憐桜学園全体に影響を及ぼす可能性があります」

「なんのことだよそれは」

「お前は黙っていろ」

「…………」


「ねえ佐竹」

「は……」



 

「私は怒ったっていいんだよ?」


「──ひ」


亜希子の顔は表面上笑顔だったが、ドスの聞いた声だった。


「あなたなんでしょ? この話を蒸し返したのって」

「…………」

「もしやとは思っていたが、佐竹、貴様……」

「源蔵くんは知らなかったかも知れないけど、佐竹は──」

「わかりました」

「あら、随分聞き分けがいいじゃない」

「事実と異なる話をされても、困りますので」

「事実と異なる、ね」


「ね……ねえ、全然話がわからないんだけど……。校長先生と知り合いなの? お母さん」

「知り合いも知り合い。元憐桜学園の生徒で、同級生だもん」

 

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「ここにいる三人とも同じクラスだったんだから」

「けれど、資産家の男性は、また別の学園では?」

「そうだよ。憐桜学園ってお嬢さまとボディーガードだけでしょ?」


確かにそのとおりだ。

資産家の男子は、憐桜学園に入学出来ない。


「無理ないわよ。もう20年以上も前で、今の憐桜学園とは、ちょっとシステムも違ったし」


「…………」


源蔵オッサンが難しい顔をしている。


「それで? あなたたちはなにを知りたいのかな?」

「お母さんが──」


妙が発言しようとしたとき、麗華が割り込んだ。


「海斗の過去?」

「おい」

「へっ?」

「話しの流れからすると、ここの三人は昔から海斗のことを知ってたんじゃないんですか?」

「…………」

「やっぱり、そういうことになってたんだ。資料になかったものね、朝霧くんのことが」

「はい」

「でもその質問には、私は答えられないのよね」

「どうしてですか?」


「お前たちがここに来る直前……亜希子くんも麗華と同じ質問を私に投げかけたからだ」

「と、言うことは……」

「私も知らないのよー。えへへ」

「じゃあなんで抱きついたの!?」


その質問は至極当然のことだった。


「あれはねー」

「本当に、話すことが正しいと思うのか? 亜希子くん」

「思うわよ」

「随分とはっきり言うんだな」

「私も、あなたも、佃ちゃんだってそう……皆あのときのこと、後悔してるんだもの」

「…………」

「妙から朝霧くんのことを聞いたとき、もう号泣しちゃいそうだったんだから」

 

「な、なあなあ、お前って何者?」

「…………」


正直、オレ自信この話にはついていけてない。

一体こいつらは、なにを言ってるんだ?


「今回うちの妙が絡んでなかったら、私は朝霧くんのことを知っても来なかったかも知れない。でも、妙が朝霧くんをボディーガードとして欲しがってるのを知ったから、居ても立ってもいられなくなってね」


「……?」


「ヤバ……」


そう言えばこいつ、うそついて泊まりに来てたんだっけか。


「えっ? ひょっとして聞いてない?」



 

「あ、あのねお母さん、その……」

「この子が源蔵くんの屋敷に泊まってるのは、朝霧くんを引き抜くための作戦なんだから」


「…………」


ちらっと妙の方を見る源蔵オッサン。


「あ、あうあう……」

「あぁ、そうだったな」


どうやらそのことを怒るつもりはないらしい。


「ホッ……」


源蔵オッサンに怒られることより、おそらく亜希子に怒られる方が怖かったんだろう。

思い切り安堵の息を吐いていた。


「だからリベンジみたいなものなんだよね。親の叶わなかった夢を、娘に託したと言うか」

「君らしい発想だ」


「全然話が見えないよお母さん」

「あ、あぁごめんごめん。えっとね……。私たちが学生の頃の話なんだけど」

「うん」

「私は朝霧くんのことが好きだったの」

 

 

「ちょ、なに私のお母さん引っ掛けてるのよ!」

「バカか。生まれてないだろ、オレ」

「あ……そか」

 

 



「もしかして……朝霧って、海斗の?」

「そうそう。朝霧雅樹。海斗くんのお父さん」

「え、ええええ!? じゃあ私、海斗と血が繋がってるの!?」

「飛躍しすぎ。片思いだっただけなんだから」

「な、なぁんだ……」

「海斗くんが雅樹にソックリだったから、もう思わず抱きしめちゃったわけなのよー」


「…………」


オレがオヤジにソックリ?


……鳥肌が立ってきたぜ。


だが、そういうことだったのか。

こいつらとオレに共通するもの。

それはあのオヤジだったってわけか。


「少しだけ、見えてきました」

「……なにが?」

「お父さまと佐竹、そして亜希子さんはその雅樹さんと同級生だって、と言うことですね?」

「うんうん」

「では……その雅樹さんとは、何者なんですか?」

「ボディーガードよ」

「……ボディーガード……しかし、どうしてもわかりません。経歴がボディーガードであり、亜希子さんやお父さまと同級生である、雅樹さんの息子……つまり、海斗の過去が不明というのは一体?」


「…………」

「…………それは──」

 

 

 

「やーめた」

 

 

 

 

 

「亜希子くん?」

「やっぱり、この話はやめにしましょ」

「しかし君が……」

「よく考えたら、子供のことに親が首を突っ込むのは間違いじゃない?」

「まったく、すぐ手の平返しするところは、いつまでも変わらないな……」

「えへへへへへ。源蔵くんが海斗くんのことに関して、ひと言も麗華ちゃんに話さなかったのが、今わかった」

 

「気になるところで区切られるんですか、私たち」

 

「彼女はいつも、こんな感じだ」

「もどかしい?」

「……はい」

「大切なのは、今の気持ちよ、キ・モ・チ。ねー、妙?」

 

 

「な、なによー……」

 


「妙くんは、もしや……」

「そういうことー」

「…………」

「私のような想いには、させたくないからね」


スッとソファーから立ち上がる。

 

「また来るから。チュッ☆」


「…………」


いい歳して投げキッスかよ。


「送ってもらっていい? 佐竹」

「畏まりました」



 


嵐のような存在が突然いなくなり、静寂が訪れた。



……。