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-ノベルゲーム・タイピング-

暁の護衛【23】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
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Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。

 

 

 


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……。

 

「なにをやらせてもグズだな、お前は」

「ご、ごめんなさい……今度はちゃんとやりますっ……」

「今出来ない者が、次にやれる根拠はなんだ?」

「こ、こんきょ?」

「根拠とは、存在の理由。私にはあって、お前にはないものだ」

「ごめんなさい! だから殴らないで!」

「殴られるのが嫌か?」

「殴られるのは、痛いよ……」

「そうか」


──ッ!!


「あ、ぐっ!」

「殴られるのが嫌なら、いつまでも殴ってやろう」

「ごめんなさいごめんなさい!」


──ッ!!


「謝るな。どうして言われたとおりにしない」

「だ、だって──」


──ッ!!


「げほ、げほ、ごほっ……!」

「早くしろ。一番苦しんでいるのはお前じゃない。後ろで殺されるのを待っている、ソレだ」

「う、うぅ……」

「可哀想なんて思うな。ソレはお前の食事を奪った、貴重な食べ物をだ。許せば、また繰り返される。強者は弱者の匂いを的確に嗅ぎ分ける。早くしろ。また殴られたくないならな」

「う、う……ごめん、ごめんよぉ……僕……もう、痛いのは、嫌なんだ……。う……うああああああ!!」


──ッ!!


「もっとだ。もっと強く。頭を的確に叩き潰せ」

「あああああ! ああああああ!!」


──ッ!!


──ッ!!

 

……。

 


「はーーはーーはーーっ……」


「そうだ。よくやった」

「はーーつ、はーーーっ……」

「次からは心を取り乱すな。泣くな。騒ぎ立てるな。静かに冷酷に、残酷に殺せ」

「はーーー、はーーー」

「そのミンチになった肉を食うなり捨てるなりは、お前の好きにすればいい。それが学ぶことだ」

「はーーー、はーーー」

「もう何度も教えただろう? 食べ物が欲しければ、奪え。殺戮に駆り立てられるなら、殺せ……とな。金も、地位も、人としての尊厳もお前にはない。しかし俺は全て持っている。欲しいと思うならいつでも、俺から奪ってみせろ。……命の保証がなくてもいいのなら、いくらでも」

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

朝日が眩しい。


「最悪な夢だったな」


上半身を起こすと、ポタポタと汗が落ちる。

1キロは痩せたんじゃないかというほどの汗。


「やっぱ昨日のことが原因だな」

 

 

 

 

あの場所のせいだ。


「…………」

 

──コン、コン……。

 

物思いに耽っていたオレを襲う、突然の訪問者。


まさか……ツキか?


扉が少しだけ開く。


──「起きてるの?」


オレが死んだフリをしようと、こっそり夜食に持ち出していたケチャップを取り出したところで、凛とした声が聞こえてきた。


……なんだ、麗華か。


「部屋なら開いてるぞ」

「起きてるならいいのよ」

「なんだよ、珍しく起こしに来てくれたのか? それなら褒美をくれてやってもいいぞ」


テントを張った下半身で待ち構える。


「起こしにっていうか、もうすぐ学園だし」

「なにっ?」


時計を見ると、確かにいつも家を出る時間が迫っていた。


「気づかずに寝てたみたいね」

「ちょっと銀河の旅に出てたからな。宇宙食用のアイスを持ち帰ったところだ、なんなら一口甘ったるいこいつを分けてやろうか?」

「あと10分して出てこなかったら、置いていくから」


なんという芸人泣かせ。

そしてボディーガード泣かせ。


扉の前から気配が消えたのを確認して、オレは布団から出た。


「下着までぐっしょりかよ」


登校する際、こいつをツキの部屋にでも投げ込んでみようか。


「……平然としてそうだな」


…………。

 


……。

 

 

 

 

「ねえ朝霧くん、それから錦織くんも。ちょっと、いいかな?」


「ん?」

「はいはい?」


3時間目の授業が終わったと同時に、担任の柊教員がオレたちを呼びつけた。

オレは無言で、侑祈はひと言断りをいれ、それぞれのプリンシパルを席に残し廊下に出た。


……。

 

 

 

 

 

「あなたたちに、ちょっとお願いがあるんだけど。ちょっと面倒なことだから、断ってくれてもいいけど」


オレは嫌な予感を察知し、侑祈に目配せする。

侑祈も小さく頷く。


「もう、例え火の中水の中、なんだってやりますよ! ──あぐっ!」

 

 

テメェ、一度死んでこい!」

「あだだだだ! 背中を蹴るなよ!」


「面白いコンビね」


生徒間での虐めと取られかねないが、柊教員はクスクスと笑っている。


「今日ね、学園に教材が届くことになってるの。それで届いた教材を3階に運ぶのを手伝ってもらえないかなって」

「任せて下さいよ。な?」

「断る」

「ええぇっ……」

「侑祈一人にやらせればいい」

「冷たいのね」

「どうとでも受け取ってくれ」


……。

 

オレは侑祈を置いて教室に戻る。



 

 

「なんだったの?」
「大したことじゃないから、気にするな」


その後別の男子生徒が廊下に呼び出された。


……。

 



 

「珍しいこともあるわね」


昼休み、一人席につく学生。



 

神崎だった。

薫はどうしたのだろうか。

オレたちが教室を出たとき、薫はもういなかったはずだが。


「トイレかなんかじゃないか?」
「そうね」


気にせず、昼食を食べることにする。



 

「今日はカレーうどんの気分だぜ」


メニューを開いてカレーうどんを探す。


「そんなものないけど」
「バカな。学食にカレーうどんがないだと?」
「カレーライスならあるわ」
「バカが。カレーライスとカレーうどんを一緒にするな」
「ご飯とうどんの違いじゃない」
「オレにカレーうどんを食べさせたら日本一だ」
「なにそれ」


オレは麗華の目の前で透明の箸を持つ。


「はふ、はふっ。ずるずるっ」

「…………」

「ふーっ、ふーっ、ちゅ、ちゅる、ちゅ……ピッ。ずず、ずーっ、ずずずーっ。ぷはぁっ」


「凄いわね……うどんを食べるところからその汁が飛び散るところまで見えるようだった」
「だろ?」
「まさに無駄な才能ね」
「と言うわけでカレーうどんが食べたい」
「だからないって」
「カレーがあるなら、あとはうどんさえあれば……」


しかしメニューにはうどんがない。


「早く決めてくれない?」
「わかってる。…………うーむ……」
「わかってないじゃないの」
「か、カレーライスで妥協しよう」


苦渋の選択だった。


……。

 

どこか物足りない昼食を終えたオレたちは、教室に戻るべく席を立つ。



 

席では、一人で昼食を食べる神崎。

向かい側に料理がないところを見ると、あれから30分薫が来てないことになる。


「神崎」


オレは声をかけることにした。


「……欲しいの?」


スッとスパゲッティーの皿を持ち上げる。


「いや、薫の姿が見えないと思ってな」
「今日は用事があるから、昼休みは一人で食べて欲しいって」
「用事?」


そんなふうには思えなかったが……。


「まぁいい。じゃあな」



 

「待って」

「どうした」

「ちょっと、お願いがある」

「お願い?」

「また、あの場所に行きたい」

「……本気か?」

「うん」

「やめとけ。無事で帰れる保障はないぞ」

「キミが、手を貸して……。薫は、連れて行けない。禁止区域に入ると知ったら、止める、から……」


そりゃそうだろうな。


「あのな、パートナーに無断で行動するな」

「わかってるけど、でも、行きたい」

「なんでそこまでして、あんな場所に」

「わからない。それを確かめたい」

「…………もう一度行けば、二度と行かないか?」

「……約束は出来ない」

「ったく」


このまま断ったら、こいつ一人で行きかねない。


「いつだ」

「明日の放課後」

「……麗華に確認を取っとく」

 

 

 

「ありがとう」


……。

 

 

 

 

「随分長かったわね」

「執拗にスパゲッティーを勧められてな。うどんじゃないから蹴飛ばしてやったが」

「うどんにこだわり過ぎ」

 

……。

 

 

 

 

「まだ戻ってないか」



 

 

「誰捜してんの?」

「侑祈か。もう教材の搬入は終わったのか?」

「教材? なにそれ」

「朝、教員に頼まれてただろ」

「……そうだっけ?」


忘れてた、ではなく忘れてるのか。


「都合のいい頭してるぜ」


男子生徒「南条なら、3階に行ったぞ」


「3階?」


そう言えば、教材の運搬も3階だったな。


…………。

 

……。

 

 



 

「あの、本当に、よろしいのですか……?」

「大丈夫、心配いらない」

「しかし……」


プリンシパルの命令に逆らうのか?」


「貴様は黙っていてくれ。これは私たちの問題だ



 

「一応私の問題でもあるけどね」


オレを含めた四人は、放課後間もない時間、校門前で円を作るようにして立ち止まっていた。

事の発端は言うまでもない。

昨日、神崎がオレに言った、禁止区域の探検。

 

 

 

『キミが、手を貸して……。薫は、連れて行けない。禁止区域に入ると知ったら、止める、から……』

 

「ただ買い物に行くだけなら、私をそばに置いて下さい。それがなぜ、海斗なんです!」


禁止区域に行くとは、もちろん薫には教えられない。

だから買い物に行くと嘘をついた。

そこまでは良かったが、当然二つ返事がもらえるわけもない。

オレは麗華のボディーガードで、薫は神崎のボディーガードなのだ。



 

「神崎先輩は、こいつをボディーガードにしたいってこと?」

「ちょっと違う……。今回の買い物は、彼じゃないと、ダメだから」

「ハッキリしないのは、人に話しにくい買い物?」

「ん」

「いいわ。私は許可してあげる」

「そんな、よろしいのですか!?」

「ボディーガードを取り替えるって話だったら、まぁ色々面倒だけど、今回限りってことでしょ? 私は元々、こいつを束縛するつもりはないし」

「だったらもう少し休みをくれ」

「なんか言った?」

「……言ってねーよ」

「神崎さまには申し訳ありませんが、私は納得出来ません」


ぐっと拳を握り締め、俯いていた。

誇りと信念の塊だからな。

自分の守るべき対象を関係のないボディーガード、それもオレのような人間に任せるのは辛いんだろう。


「ですが……それが神崎さまの願いなら、私には止めることは出来ません」

「ありがとう……薫は、頑張ってる。だから心配しないで」

「わかりました。海斗、絶対に神崎さまを危険な目に遭わせるな」

「やれる限りはやるさ」

「やれなくてもやってくれ。頼む」

「……ああ」

「万一のことが起こったら、すぐに連絡を」

「わかってるよ」

「日が暮れるまでには、帰るから」


「じゃあ私は歩いて帰るわ」

「車で帰れよ」


半ば強引にも、オレは麗華を車の中に押し込んで帰らせた。

 

……。

 

 

 

「昨日言ったこと、本気だったんだな」
「なにが?」
「禁止区域を見に行きたいって話だ」
「本気も、本気」
「またあの場所に行くってのか?」
「ちょっと違う」
「違う?」
「特別禁止区域に、行きたい……」


ちょっと待て……。


今、こいつはなんて言った?


「悪いけどもう一度言ってくれ」
「特別禁止区域に行きたい」
「冗談だろ? あそこがどんな場所か知ってんのか?」
「さぁ?」
「だろーな。知ってたら言わないだろうぜ。お前みたいなヤツが行ったら、どうなると思ってるんだ」

 

 

 

「どう、なる?」
「そりゃ……」


金を持ってりゃ金を奪われるし、これだけの容姿をしてりゃ、身体も弄ばれる。

 

 

 

「まぁ、色々ピンチになるだろ」
「そのときは、正義の鉄槌を」


グッと拳を振り上げる。


「そう言うと思ってた。なんでもかんでも、暴力で解決すると思うなよ?」
「暴力じゃない……愛の、ムチ……」
「なんにせよだ。そんなとこに立ち入らせるわけにはいかねぇよ」
「どんまい」


ぽんと、肩を気安く叩くお嬢さま。


「なにがどんまいだ」


こりゃ、本当に気を引き締めないとな。

なにがあっても、あの場所に立ち入らせるわけにはいかない。


…………。

 


……。

 

 

 

 

 

まだ明るい時間帯にも関わらず、この場所が薄暗いのはなぜだろうか。

人の姿や、昼の明かりがないだけで、それほど変わるのか。

 

 

 

「そろそろ話せよ」

「なに、を……?」
「この場所に来たかった理由だ」
「…………どうして、こんなにも、違うのか、知りたい」
「格差のことか?」
「そう……」


確かにここ数十年、日本の生活水準は異常なまでに格差が激しくなった。

それは一般家庭と富豪の差が広がっただけに留まらない。

駅や公園にたむろっていた低賃金の浮浪者は、公共の場から姿を消さざるを得なくなった。

それはゴミを隅に追いやるかのように。

一部の金持ちは、貧民という存在を許せなかったのだ。

同じ人間であることを認めたくなかった。

そもそもの『格差』という存在を消し去っていった。

その貧民達の集まりが禁止区域。

だが、神崎の論点はそこじゃないんだろう。

何故貧民が存在しているかを、知ろうとしている。

それは金持ちとして産まれ、金持ちとして育った証拠だ。

知識で知っていても、貧しい人間を知らなかったんだ。

無垢で純粋にして、残酷な現実だ。


「…………」


それを、オレは今はっきりと理解した。

誰もが見たことのない動物に興味を示すように。


「キミは、知ってた?」
「あ……なにが」
「世界の中に、こんな場所があること……」
「お前は知らなかったみたいだな」
「文献でしか、知らない……テレビでも新聞でも、見たことがなかった」
「メディアでは規制がかかってるらしいな」


禁止区域の映像や、住まう人物を公共に晒すことはしない。

これからを担っていく子供たちに、そんな『汚い』ものが同じ日本人であると教えるつもりは、毛頭ないのだ。

誰もが平等に暮らせると、嘘を貫き通すために。

自分たち日本人は、世界で最も人を愛しみ、生命を尊重するのだと言い張るために。


「一部ではこの区域を完全封鎖すべきだって声もある」
「完全、封鎖?」
自衛隊が禁止区域を包囲し、どちら側も出入りが出来なくなるようにな」

「…………」
「もっとも、そんなことをすれば……」
「すれば?」
「お互いに無傷じゃ済まないだろうな」
「どうして?」
「お前には説明しても理解できねぇよ」
「話してみなくちゃ、わからない」
「わかるっての」
「じゃあ、キミはわかる?」
「さぁな。感覚ではわかってても、実際のところははっきりしねぇな」
「なんだ……キミも、わからないのか」
「生憎と、オレは富豪でも貧民でもないんでね」


どちらの考えも、苦悩も、理解なんて出来ない。


「じゃあ、きっと行けばわかる……」
「能天気だな、あんたは。いくらココを見たことがなくても、知識としては危険なことくらい知ってるだろ?」
「危険なことは、何度も経験した」
「何度も?」


お嬢さまがそういう危険な目に遭うとは思えないが……。


「おじいちゃんに、倉の中に閉じ込められた」
「……は?」
「小さい頃、の話」
「あぁ、いわゆるお仕置きってヤツか?」
「鍛錬」
「どんな家庭で育ったのか、非常に興味が湧いた」
「一人でも生き抜ける力を養うため、らしい」
「実に金持ちらしからぬ行動だな」
「アレは、いい勉強になった」
「怖かったとかじゃないのかよ」
「……確かに、3日間食事を与えられなかった時は、少しだけ怖くなったかも知れない」
「オレはお前の家庭事情を聞くのが怖くなった」
「こんな経験、ない?」
「……あるわけないだろ」
「ん?」
「あるわけないって言ったんだ。どんだけ暴力的な家庭なんだよ、お前んとこは」
「鍛錬」
「この際鍛錬でもいいけどよ……辛くなかったか?」
「全部、自分のためになったことだから」
「それは結果論だろ。その過程でだ」
「辛かった……? どうだろ……。そうかも知れないし、そうでないかも知れない」
「なんだそりゃ」
「一つ言えるのは……」


ぐー。



 

「お腹空いた」
「……ったく。じゃあ戻るか? 腹が減ったら戦も出来ないだろ」
「心配いらない」


ポケットに手を突っ込む。


「スカートにポケットってついてるんだな」


初めて知ったぞ。

いや、普段知る機会なんてないからだが。



 

「じゃーん」


能天気な効果音で、取り出したモノ。


「栄養食?」
「手軽で、栄養満点」
「そんなもん持ち歩いてるのか」


奥に進みながら、神崎はブロックを取り出す。

そして口に入れようとしたところで、目が合った。


「んだよ」
「これは、譲れない……」
「誰も欲しいなんて思ってねーよ」
「……心配しない。冗談」


すっとブロックの一本を差し出す。


「公平に、分ける」
「でもお前の手にはブロックが3本あるぞ?」
「これは幻覚。空腹による症状」


どうやら公平に分けるつもりはないらしい。


「まぁくれるならもらっておく」
「うん」


受けとったブロックを口に運ぶ。

もそもそ。


「実に飲み物が欲しくなるな」
「ごくごく」
「……なに飲んでんだよ」


神崎の手には、アルミ缶が握られていた。


「やっぱり、飲み物がないと、辛い」
「どっから取り出した、どっから」
「はい」
「くれるのか? 意外と優しいんだな」


受け取る。

 

「実にアルミの重さだけしか感じられんな」
「ゴミ」
「んなこたぁわかる!」
「なんか、あまり機嫌が、良くない?」
「おかげさまでな。お嬢さまに振り回されるのは慣れてるが、こんなスリリングな場所で味わうのは勘弁願いたいね」


さっきからオレたちの雰囲気は能天気だが、進んでいく場所はそろそろ笑いの入り込む余地がない。


「この辺で満足しろ」


この辺りですら、本当ならアウトだ。

いつこの間のようなヤツらが現れるとも限らない。


「誰かに会わないと、来た意味がない」
「そんなこと初めて聞いたぞ」
「言ってたら?」
「当然ついて来なかったさ」
「じゃあ、言わなくて正解だった」
「作為的かよ。ここのヤツらに会ってなにを話す気だ? お前が朝や昼に食べた物についてでも話してみるか?」
「うん」
「…………」
「はい?」
「返事の問題じゃねーよ! 殺されたいのか、お前は」


頭をぐわしゃぐわしゃと振ってやりたいが、間違いなく華麗にかわされるだろう。


「こんなことに興味持ちやがって。もっと青春するものに興味持てよ」
「例えば……?」
「そりゃお前色々あるだろ」
「色々って……?」
「色々は色々だ」
「キミは、どんなのに興味がある、の?」
「オレ? オレか。…………」


よく考えてみれば、興味のあるものって殆どないな。

 

 

 

「興味ない?」


読書だと答えてもバカにされるだけだろうし。

こいつなら3秒で寝てしまうようなジャンルだ。


「強いて言うなら、興味がないのが興味だ」
「意味が、わからない」
「オレも……」


言ってて混乱してきた。


「あ」

「なんだ、空から少女でも降ってきたか?」

「うん」


いや、うんって……。


「だっしゅ」


「おいっ、どこに……!?」


神崎の駆けた眼前、そこには空から落下するモノが。


──!


「危機一髪……白ヒゲ」

「いや、最後のひと言は余計だ」


オレは駆け寄り、神崎の腕に抱かれたモノを見る。

それは薄汚れた少女だった。


「マジかよ」

「気づいて、言ったんじゃ、ない?」
「ふつー空から少女は降ってこない」


ここに尊のようなヤツがいれば、『服が汚れますお嬢さま!』って叫んでそうだ。

それほどに少女の姿は……だが、神崎は無表情のまま。

二人でゆっくりと空を見上げる。

そこには、今にも崩れ果てそうなビル。

そこから薄暗く影が覗いていた。

だが、こちらが気づいたとなるや、その影はスッと闇に溶けて消えた。



「突き落とした……?」
「…………どうするんだよ、それ」
「持って帰る」
「捨て犬かなんかか」
「まずはトイレから教えないと」
「おいっ、道具でもペットでもねーんだぞ」
「冗談、冗談」
「お前が言うと本気と冗談と区別がつかん」
「お母さんか、お父さんを探す」
「やめとけ」
「どうして……?」
「どうせあっちに行くってことだろ?」


ここから先は特別禁止区域だ。


「だけど、放ってはおけない」
「正義ってヤツか?」


ゆっくりと神崎は首を横に振る。

どうやら違うようだ。


「じゃすてぃす」
「一緒だ! 辛い事実を知るかも知れないんだぞ?」
「辛い、事実……?」
「それでも入りたいのか」
「うん」
「そうかよ」


このお嬢さまの勢いは、オレには止められそうにない。


「わかった。ただし30分だけだ。それ以上ここには留まらない」
「それを、破った、ら……?」
「容赦なく、薫に連絡を入れる」
「30分にオマケは?」
「ねーよ!」
「サッカーなら、ロスタイムがあるのに……」
「サッカーと一緒にするな」

 

 

 

「まさっかー」
「5分短縮」
「ごめん、それは、勘弁」


……。

 

 

 

 

「……ここは、別世界みたい……」
「だな」


さっきも薄暗かったが、ここはもう夜のようだった。

陽の光は殆ど差し込まない。

鼻をつく臭いは、表しようのない異臭。

せめてもの救いは、多少なりとも神崎に武道の心得があること。

それがなければ絶対に踏み込むことはしなかった。

 

 

「私の後ろを、歩いた方がいい」
「いや、ここはオレが前を歩く」
「この子を抱いてるから、なにかあったら、助けられない、かも」
「心配してくれるのは嬉しいけどな、曲りなりにもボディーガードだからよ」
「足が震えてる」
「ちょっと武者震いがするだけだ。勇ましい男に見えて格好いいだろ?」
「汗をかいてる」
「常にスーツだからちょっと蒸した。鍛えてる男に見えて頼れるだろ?」
「腰が引けてる」
「戦闘態勢に入っただけだ。我流の構えみたいで渋いだろ?」
「……結構、格好悪い……」


ストレートに言われてしまった。


「でも……ちょっと、凄い……」
「なにが」
「後ろから見てても隙が、見つからない」
「なに味方の隙をうかがってんだよ」
「前から思ってたけど、キミは、隙が、ない……」
「隙だらけの人生ってよく言われてるぜ?」
「人生とは、関係、ないけど……」
「ボディーガードは誰でもこんなもんだ」
「そう、かな?」
「尊や薫を見てれば分かるだろ。って、尊のことは知らないか」
「そう、かも」
「……やっぱりお前が前を歩いてくれ」
「臆病?」
「怖いもんは仕方ないだろ」
「わかった」


また前後入れ替わる。

元々前を歩く気はなかった。

背後を歩くほうが遥かに危険だからな。


……。

 

 

 

特別禁止区域に立ち入って数分、考えたくなかった事態が襲い掛かった。

 

 

 

「誰……」


周囲に人影はない。

しかし確実に幾つかの気配を感じ取る。


「オレたちが獲物かどうか品定めしてるのさ」

「どこの気配か、探れない」

「当然だ。甘い考えは捨てろよ? ここにいるのは、全員がお前レベルだと思った方がいい」


気配を殺すことだけを見れば、神崎など遥かに凌ぐ。

気づいたら背後を取られてることも十分にありうる。


「私は、この子の親を捜してるだけ」


気絶している少女の顔を見せる。

 

……。

 

 

「誰も出てこない……か。この辺りに置いて、そろそろ戻った方がいいんじゃないか?」

 

 

 

「それは、ダメ……」


そう回答するのは予想どおりか。


──「う、ん……」


「気がついた、みたい」

「…………」


薄く開いた瞳は、透き通っていて綺麗だった。


「あ……っ!」


神崎の腕の中にいることが嫌だったのか、少女は強引に神崎から逃れる。



 

「一人で、大丈夫?」


そんな声を無視するように、少女は背中を向け暗い闇の中へと走り去っていった。


「…………」
「悩みの種はなくなったな。これで帰れるだろ?」
「あの子、大丈夫……かな」
「それはオレたちが心配することじゃない」


むしろ、今は少女よりもこっちの身だ。

突き刺す視線はまだ続いている。



「もうすぐ30分だ、戻る約束だぞ」
「13分しか経ってない」


しっかりと計算されていた。


「これ以上奥に行ったってなにもねーよ」
「どこかの民家で、お話がしたいだけ」
「民家なんてあるわけないだろ」
「水族館は?」
「からかってるんだよな?」
「……人は、いる」
「人の皮を被った化け物かも知れないぜ?」


──!


「どうやら人みたいだ」


空き缶が投げつけられた。


「悪口を言うから、バチが当たった」
「その様だ」


──「お前たちみたいなのが、なんのようだ」


薄暗く響く声が、どこからか聞こえる。


男「また、あの団体か?」


「そう見えるなら病院に行くことをオススメする」

「私は憐桜学園の生徒」


男「その学生が、なんのようだ」


「この辺に住む人と、話がしたくなった」

「会話が成立してることに奇跡を感じるよオレは」

「別に敵意はない」


男「身ぐるみを置いて去ればよし。これ以上奥に進むなら、覚悟してもらう」


労をせずして奪おうってタイプか。

いきなり襲い掛かるタイプよりはよっぽどましだ。


「じゃあ、奥には進まないから話をしよう」


男「なら訂正しよう。大人しく身ぐるみを剥がされるか、強引に奪われるか、選べ」


「まさに不条理な二択ってやつだな。どうする?」

「どうもしない。私はこの辺りの人と話すのが目的。そして、私は今目的を達成している」

「幸せな顔してんな、オイ」

「もっと、会話を楽しむ」

「その行動力は尊敬するが、相手にもオレにも多大なる迷惑をかけてるぞ」

「きっと、わかりあえる、さ」

「根拠のない正義だな」


男の方も、さすがに神崎の異常さに気づき始めていた。


男「気でも狂ってるのか?」


「あながち違うとも言い切れない」


男「チッ」


「あ、待って」


なにかを感じ取ったのか、男は遠ざかっていく。



「キミのせいで帰ってしまった」
「お前の異様なオーラにびびったんじゃないか?」

 


腕のある者は、対峙しただけで力量を計れる。

神崎の底知れぬ力に気づいたのかも知れない。


「追いかけよう」


もしくは単純に、変人だと気づいただけかも。


……。

 


その後も神崎はあとを追いかけたが、もう一度あの男に会うことは出来なかった。

日が暮れてきたことを理由に引き上げたが、放っておけばいつまでも禁止区域に残っている雰囲気だった。


…………。

 

……。

 

 

 

 


──「神崎さま!」

 

「およ?」

 

 

 

屋敷のそばまで帰ってくると、薫が駆けて来た。

ずっとこの辺りで帰りを待っていたのだろうか。


「ご無事でなによりです」

「うん」

「随分と、その、制服が汚れております」

「全然平気」


僅かな異臭を嗅ぎ取ったのか、一瞬だけ薫がこっちを睨んだが、すぐに平然とした顔つきに戻った。


「では、帰りましょう」

「ばいばい」

「ああ」


手を振る神崎と薫に別れを告げた。

 

 

 

「もう二度と付き合ったりするか」


…………。

 

……。

 

 

 

 

 

 

 



「どうして海斗がついてくるんだ。麗華お嬢さまのそばについていなくていいのか?」
「あいつが教室で昼寝するって言い出したからな。昼食も食べずにご苦労なことだぜ」
「だからと言ってそばを離れていいわけじゃないだろ」
「そばにいると集中して寝られないって、強引にオレを追い払いやがったんだよ」


…………。

 

……。

 

 

 

 

 

 

下の中庭から、聞き慣れた二人の声が聞こえてきた。

私は窓から身を乗り出して、視線を下へとおろした。

そこには睨む薫と、無愛想な顔がある。

私は自然と無愛想な顔の方を追っていた。

おおよそ、ボディーガードとは思えない雰囲気を持つ男。

どうやら彼は私のところへと向かっているようだ。


朝霧海斗。


薫のように、私のボディーガードと言うわけでもないのに、私に近付いてくるたった一人の存在。

そこには下心をまるで感じられない。

そして私を恐れる様子も、まったくない。

私には、まるで影響力を持たないはずだった。

会話をすることすらないはずだった。

おじいちゃんは常々言っていた、敵は内にこそいると。

だから余計な者は近寄らせないようにしてきた。

これまでもこれからも変わらない。

だけど……どこか不思議と目を奪われる。

それはいつからだろう。

そう、二人であの場所に行ったそのときからだ。

僅かに異質な人々と触れ合った瞬間から。

私が知らなかった世界が開けた瞬間から。

あちら側の人と同様、私に入り込んできた。


朝霧海斗。


不思議な存在。

私は彼と接することで、なにを知っていくのだろう。


……。

 

 

 


「よう神崎」

 

 

 

「こら、私より先に話しかけるな。申し訳ございません神崎さま、余計な者がついてきました」

「別に、構わない、よ?」



今日の神崎はどこか機嫌が良さそうだ。

 

 


「ほら頭下げろ。神崎の寛大なお心遣いに感謝だ」

「こ、こら! 私の頭を押さえ付けるな!」

「なんだ不満なのか?」

「不満もなにも、私のセリフじゃないか!」


「……コント?」


「違います、神崎さま。そんな誤解しないで下さい」

「必死だな薫」

「頼むから、余計なことはしないでくれよ……」


深いため息は気苦労の証拠だった。


「わかって、からかってる?」

「それがオレの生き甲斐なんだ」

「そんなものを生き甲斐にするなっ。まったく、お前はそんなキャラじゃないだろう?」

「そう、なのか?」

「そうなのか?」

「はぁ……もういい」


オレの投げた言葉のボールは、返球されなかった。


「変化球ばっかり投げるからだ」

「勝手に地分を読むな」

「?」


三人で、一緒に食堂へ向かう。


「そう言えば、お前たちは食堂で食べることが少ないよな」

 

 

「神崎さまは、騒がしいところはお好きじゃないんだ」

「ギャーギャー騒ぐタイプには見えんな」

「いつもは中庭などで食べられている」

「主食は花は葉っぱか」

「それ、海斗が前に言ってた好物じゃなかったか?」

「オレは大好きだぞ。葉っぱ」

「そんなものを食べるのはお前だけだ」



 

「……冗談?」

「冗談じゃねえよ」

「遺憾ながら、海斗は冗談抜きに食べるんです」

「葉脈が、固いと思う。美味しいとは思えない」

「確かにクセは強いけど、慣れるとやみつきになるぜ」

「貧乏人じゃあるまいし……どんな罰ゲームなんだ」

「金があるないは関係ないだろ、うまいもんはうまい」



 

「そこまで言われると、食べたくなってきた」

「ご、ご冗談を!? 海斗、絶っ対に間違っても葉っぱを食べさせるなよ! そんなことしたら真っ二つにする!」

「わーってるよ」


本気で慌てる薫、どう考えても冗談だろ。

真に受けやすいな。


……。

 

 

 

 

「では、いつものでよろしいですか?」

「うん」

「ついでに海斗の分も買ってくるけど、なにがいい?」

「なんだよ、お前が買いに行くのか?」

「なにか問題でも?」

「いや、お前がそれでいいなら、別にいいさ」


オレは執事のような真似事までするつもりはないからな。

身辺を守ることはしても、世話まではしたくない。


「適当に任せるわ」

「わかった」


人混みのない方のカウンターへ足を運ぶ。


「じゃあ、オレらは座って待つか?」


背後にいる神崎へと声をかけた。


…………。


が、既にそこには姿がなかった。

もちろん薫についていったわけでもない。


「トイレ、か?」


……。

 



 

廊下に出てみると、そこに神崎がいた。

窓に足をかけている。


「なにやってん───だ!?」


窓に足をかけていたかと思うと、次の瞬間に外へと跳躍していた。


「ここ3階だぜ……?」


慌てて窓へと駆け寄る。

下を見ると、何事もなかったかのように着地していた。


「おいコラ化け物」

「……ん……私のこと?」

「こんなところから平然と飛ぶヤツは、どう考えたって化け物だろ」

「そんなこと、ない」

「まぁ、そんな恐ろしい部分は触れないでおくとして、お前なにやらかすつもりだ?」

「別に……ただ……」

「ただ?」

「葉っぱを食べてみるだけ」


そう言って、木の枝の葉っぱを引き千切った。


「いや、それは待て!」

「美味しいんでしょ?」

「確かにうまい、美味だ。だが、薫に釘刺されてんだよ。葉っぱに耐性がないのに食ったら、消化不良を起こしかねない」

「……あーん」

「人の話を聞けっ!」


──!

 

 

 

「ん?」


「悪いが、真っ二つにされたくないんでな」


口に運ぶ僅か手前で、神崎の腕を掴んだ。


「今、もしかして、窓から飛んだ?」
「お前が飛ばせたんだけどな。誰かさんと違って、足は痛くてガクガクだ」
「残念」
「ふう……」


危機一髪だったぜ。

腕を放す。


「と見せかけて」
「しまった!」


空いていたもう片方の手で、神崎は葉っぱを食べてしまった。


「葉っぱを本気で食べるお嬢さまがいたか」
「もぐもぐ……ごくん」


躊躇いなく飲み込む。


「うまいか?」



 

「おいしく、ない」
「良かったな。満足したなら上に戻るぞ」


葉っぱを食わせたなんて知れたら命がなくなる。


「もう一枚」
「絶対に食わせん」

 

……。

 



 

「なんとか、薫が買い終わる前に戻ってこれたな」
「良かった」
「ホッとするんだったら最初から行動するな」
「秘密を教える、よ」
「秘密?」
「もう、キミには特別。薫にも話してない」
「期待はしてないが、なんだよ」
「実は……私は、行動派」
「言われんでもわかってるっての!」


なにかと思えば、本気でくだらないことだった。



 

「あれ?」
「今度はなんだよ」
「なんでも、ない」
「……さよか」


麗華とはまた違った意味で、扱いの難しい。



 

「お待たせしました、神崎さま」


「おかえり」

「どこで食うんだ?」

「今日は、庭で」

「は」

「庭先で食べるとか、どこまで本気なんだ?」


薫にそっと耳打ちする。


「気持ち悪いぞ」


逃げるように顔を引き離す。


「……ちょっと傷ついたぞ」

「男に耳打ちされて、嬉しいのか、海斗は」

「殴り飛ばす」

「そういうこと。私の気持ちも同じだ」

「で……どうなんだよ」

「神崎さまは、有言実行なさる方だ」


……。

 

 

 

お日様が高いねぇ。

これ以上ギラギラしたお日様に当たっていると、肌が焼けてしまう。





「こら、どうして引き返そうとしている」

「太陽の下に長時間いるのはよくないってお医者様が」

「健康診断では問題がなかっただろう? アレルギーも特に持っていないし」

「勝手に人の身体状況を記憶するな」

「部屋の中に堂々と診断結果を置きっぱなしにしていただろう」

「そんなこともあったな」

「それで、健康体のお前がどうして戻る?」

「赤っ恥をかくつもりはない」

「それは……私だって辛いが……」

 

 

「ここで食べよう」


どこから持ってきたのか、ピクニックシートのようなものを敷く。


「私一人に恥をかかせるつもりかっ」

「お前は神崎のボディーガードだろ」

「ぐ……」

「じゃあな」

「せっ!」


──!


「ぐぉ……っ」


強烈な無機質の痛み。

腰に携えている刀の柄頭が、オレの腹部を突いたのだ。


「どうか、した?」

「いえ、今行きます」


ずるずる……ずるずる……。

 

……。

 


「ハッ……!?」

 



 

「あ、目が覚めた……」

「ム、ムゥム?」


口の中になにか、ふわふわしたものが。


「寝ていてもパンが食べられる、か、実験中」

「モゴ、モゴ……ムグ」


喉の中間にまでパンが入り込んでいた。

相当強引に詰め込まれていたようだ。


「ン……ン……ッ……ッ……!」

「けい、れん?」

「水だ」


……ナ、ナイス。


「ゴク、ゴクッ……ふぅ…………ちょっと三途の川が見えたぞ」

「おいしい?」

「平然と聞くな馬鹿もん」

「神崎さまに暴言は許さんぞ海斗」

「お前はお前で、刀に手を伸ばすんじゃない」

「なら、侮辱するような発言はやめてもらおう」

「ったく、堅物だな薫は」

「当然のことだ」


「二人とも仲が、いいんだな」

 

「どこがですか!」
「まぁな」

 

「ほら……仲がいい」

「いえ、そんなことはありません。進級した同級生の中で、一番苦手ですから」

「傷つくな、本人を前にして」

「事実だ」

「つーか、割と冷静なんだなお前は」


さっきから感じる視線に、オレは困惑していた。


「教室のあちこちから好奇の視線を感じるぞ」

「そんなことはわかっている。けれど、だからと言ってどうにか出来ることじゃない」

「……もぐもぐ」


まるで視線などないかのように、神崎に異変は見受けられない。


「大物の証ってヤツか」


…………。

 

……。

 

 

 

 

「随分と楽しそうだったじゃない」

「ニヤニヤしながら言うな」

 

 

「あんたも大変ね、神崎先輩のボディーガード」

「いえ、やりがいがあります」

「前向きなのね」

「いえ、プリンシパルのおそばにいるのは、ボディーガードとして当然のことです」

「どっかの誰かに、あんたの爪の垢を飲ませてやりたいわね。デパートに行こうものなら、"お土産よろしくな"、とか言って寝ようとするしね」

「それは、ボディーガードとして大いに問題がありますね」

「オレにはオレのやり方がある」


「単純にサボりたいだけだろう」


──!


ポケットに振動があった。

薫と麗華から少し距離を置いて、携帯を確認する。

もっとも、十中八九ツキからだろう。

しかし、それは予想に反した内容だった。

登録されていないメールアドレス。


「……誰だ?」


とりあえず開いてみる。


『今日の放課後も、例の場所に』


メール文から察するとすれば、神崎ってことになるのか?

いや、なんであいつがオレのアドレスを知っているかは別の気にすることじゃない。

金持ちってのは、この世の95%はなんとかしてしまう。


「まだ懲りてないのか」


そっちの方がよっぽど問題だ。

がっくりと肩を落とす。

昨日だけとか言ってた気がするんだがな。


『麗華お嬢さまの付き添いがあるから無理』


そう打ち込んで返信しておく。

こっちの事情くらい理解してくれるだろう。


──!


すぐに返信があった。

大方『わかった』とか『仕方ない』とかの一文だろう。

メールを開く。


『どんな事情にせよ、ついてきてくれないなら、私一人で向かうことにする。その際、万が一のことが起こった場合、誰の責任になるんだろう? じゃ、そういうことで。 追伸・薫に話すのはダメ』


「……オレが断ることを前提に考えてやがったな」


つーか、これはどう見ても脅迫じゃねえのか?


「はーっ、二日連続で薫を誤魔化せるとは思えんぞ」


その旨をメール文にして返す。


「海斗、さっきからなにしてるんだ?」

「メールだ」

 

 

「あんた、メールのやりとりする相手いるの?」

「ツキだよツキ」



 

「あの子が? 珍しいこともあるわね」

「そうなのか?」

「用件がある場合は、電話してくるし」

「一応学園にいるから気を遣ったんじゃないか?」

「そう」


──!


「返事が返ってきたか」


『プランは任せるb』


「なんだ、このBって……?」


問題はそんなことじゃないか。


「任せると言われても、どうしようもないっての」


麗華だって、これ以上機嫌を悪くは出来ない。


──!


「立て続け?」


『放課後までに交渉しておいてb』


だから『B』ってなんだよ。

とにかく、事態はよろしくない方向へと向かっていた。

このまま神崎の悪行? をのさばらせておいては、今後どんどんつけ上がられることは目に見えている。

危険を承知で、薫には話しておいた方がいいかもしれない。


「なあ薫……少し話があるんだが?」

「なんだ、突然」

「禁断の告白ってヤツ?」

「そうなのか!? 気持ち悪いぞ!」

「んなわけないだろうが。ちょっと耳貸せ」

「耳元に息を吹きかけるってヤツ?」

「絶対に貸さない!」

「余計なこと言うなよ麗華」


結局耳は貸してもらえなかった。


…………。

 

……。

 

 

 

 

 

時間は流れて、あっと言う間に放課後。


「結局言い出せなかったか」


この際無視するしかないだろう。

いくら神崎でも一人で行くはずがない……多分。

 

 

 

「帰るわよ」
「あいよ」


薫もそばにいるんだ、問題ないだろう。


…………。

 

……。

 

 

 

 

 

それは夕食を終え一息ついたときの、突然の電話だった。



 

「なんだよ」
『恋人からの電話』
「恋人?」
『薫って人』
「お前、それは恋人じゃなくてだな」
『冗談。男の人ってことは知ってる』
「なんで薫のこと知ってるんだよ」
『それは秘密。とにかく、繋ぐから』
「ああ」
『もしもし、海斗か!?』
「なんだよこんな時間に。それも屋敷を通しての電話なんて」
『それが……放課後から神崎さまが見当たらないんだ!』
「……なに?」


耳を疑う発言だった。

放課後から神崎が見当たらない?


『今の今まで、ずっと捜索してたんだが見つからなかった』


薫の声は、今までにないほど絶望に打ちひしがれていた。


『もしかしたら、海斗といるんじゃないかと思ってたんだが……』
「いや……」
『だろうな。麗華お嬢さまと帰宅したことは聞いたよ。すまない、ありがとう』
「待て、オレも探すのを手伝おう」
『気持ちはありがたいが、これは僕らの問題だ。こっちの方は屋敷総出で捜しているから』
「そうか」
『じゃあ、また』
「おい薫」

 

…………。


すでに電話は切られていた。


「うそだろ?」


昼間のメールがうそでなければ、神崎は一人で禁止区域に行ったことになる。

それも今の時間まで帰ってないだと?

絶望的な背景が一瞬頭をよぎった。


「くそっ」


…………。

 


……。

 

 

 

 



いつものオレなら、当たり前のように放っていただろう。

しかし、神崎とは知り合ってしまったからな。

それに薫……あいつが、『僕』と言ったのは久し振りだ。

それだけ無理してるってことか。

余裕のない友人と、神崎のことが頭でいっぱいになり、許可も取らずオレは飛び出していた。


……。

 

 

 

街灯一つ満足にない禁止区域。

そこは明かりを持たない人間にとっては完全な『闇』に等しかった。

暗闇の中、勘を頼りに歩く。

視界が悪いからと不用意に明かりに頼ろうとすると、その光を狙ってハイエナが動く。


「神崎、どこにいる神崎!」


携帯にかけてもつながらない。

電源を切っているのか、電波が入らない場所にいるのか。

携帯電話の画面を見る。

電波は僅かに一本だけ立っていた。


「もっと奥ってことか?」


だとすれば、特定禁止区域としか考えられない。


「……行くしかないか」


闇は、より闇へ。

 

……。

 



 

廃校や閉鎖した病院に肝試しに行く方が、ここの1000倍は気持ちが楽だっただろう。

幽霊は人を呪い殺すかも知れないが、ここの住人は死すら与えてはくれない。

それすら生ぬるいと思えるほどの、恐怖を与える。

その辺で裸の神崎が倒れてることだってありうる。


「いや……裸で倒れているのなら、まだラッキーか」


もしここに入り込んでいたと仮定するならば、犯され放置されていることを願うのも一つの正しさ。

無論、そんな甘いことは考えられない。

朽ち果てるまで生処理道具として使われ、やがて死に果てたとき、その身体の臓器は闇の商人たちに売りさばかれる。

大声で神崎の名前を呼びたいが、そんなことをすれば余計な存在を呼び寄せるだけだ。

ただ、昨日の場所を目指す。

そこにいなければ、引き返すしかない。


……。

 

視界はほとんど見えないが、昨日の拠点にやって来た。

気配はなにも感じない。

ここには来ていなかったのか、あるいは……。


そのとき。


眼前に人の気配を感じた。

微かな気配。

直視出来ない暗闇の中に、確かに感じられる、人の気。


「…………」


オレは一気に詰め寄り、その影を捕らえた。


気配を殺す技術は中々のようだが───!


こちらが潜めていた気配を開放すると、それに気付いたか、あるいは風の流れを感じたか。

背後を無防備に取られたそいつが、わずかに反応した。

しかし気付くのが遅すぎた。


影は瞬時に対応してくるが、その手を封じる。


──ッ!!


繰り出した裏拳をかいくぐる。

びくりと、相手の身体を跳ねさせた。

こちらの動きが想像以上だったからだろう。

この影も、それなりに身体能力は高いが、オレからすれば子供も同然だった。


「っら!」


二、三度読みあいの攻防を繰り広げたが、それまで。


──ッ!!


オレは相手の首を掴み、そのまま壁へと叩きつけた。

旨を壁に押し当てさせ存分な呼吸はさせない。


「強引に抗い反撃に出ようとするなら、殺す」


携帯を開いて影へと光を当てた。


こうすればこちらは相手の素性を知ることが出来るし、相手は闇から光への急な変化に視界を奪われる。

 

 

 

 

 

「……眩しい」

 

…………。

 

呼吸出来ないことと眩しさから、苦しそうな表情を見せていたのは、オレが捜し歩いていた存在だった。


「か、神崎ぃ……?」


予想外の人物。


「てめぇ、やっぱココに来てやがったのか」


怒ってやろうと思っていたが、自然とホッと胸を撫で下ろしていた。


「誰かになにかをされたってことはないか?」
「ん……」


全身、多少汚れたりしているが、問題はない。

良からぬ目には遭っていなかったか。

腕の力を緩める。

しかし神崎は、どこかぼーっとしているようだった。


「神崎?」


気のせいか、神崎の顔が赤い気がする。

携帯のライトのせいだろうか。



 

「こんなにも簡単に、押さえ込まれたのは初めてだ……」
「押さえ込まれてなんで笑ってんだよ」


腕を離して、神崎を解放する。

とにかく無事で良かった。


「キミは、凄い……んだ」
「よくわからんが、急いで帰るぞ」


ここに来る途中、何機かヘリを見かけた。


「こんなことじゃ、しょっちゅうヘリを飛ばすことになるぞ」


…………。

 


……。

 

 

 

「これで、ようやく一つ確信が持てた」

 

 

 

 

「確信?」
「遊び半分じゃなくて、お前が本当に禁止区域……正確には身分の違う人間に興味を抱いてることがだ」
「うん」
「とんでもないもんに、興味を持ったもんだぜ」


その後、何人か黒服を連れて来た薫に神崎を任せ、オレは帰宅することにした。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

 

 

悪夢のような一日が終わり、新しい一日がやってきた。

起床時間は午前6時。

オレは一つの決意を胸の内に秘めていた。


…………。

 


……。

 

 

 

いつものように麗華と共に学園にやって来たオレは、教室まで同行すると同時に教室を抜け出した。

薫が着席していたことを見ても、あいつが学園に来ていることは間違いない。

 

……。

 

 

 

 

 

「ちょっとそこのノッポ」


男生徒「ぼ、僕のことか?」


「ここは3年の教室であってるのか?」


男生徒「あぁ……そうだけど」


「神崎はどこのクラスだ」


男生徒「えっと、この廊下の端だよ」


「ご苦労」


男生徒「き、きみ、明らかに年下だよね?」


「だからなんだよ」


男生徒「いや……なんでも」


実に気の弱い上級生だった。

よくあんな性格でボディーガードが勤まるもんだ。

 

……。

 

 

 

 

 

同じ作りであるはずの教室。

違和感を感じるのは、配置が違うからか、そこに在籍する生徒が違うからなのか。

見覚えのない生徒が教室に入ってきたことを敏感に感じ取った生徒たち。


「くぉら神崎!」



 

「おはよう」
「おはようじゃねえよ」


──!


神崎の机を叩く。



 

「……お昼は、まだ、だけど?」
「そんなことじゃねえよ。昨日のことだ」
「ああ、うん」
「本当にわかってんのかよ」


昨日は心身ともに疲労していただろうから怒らなかったが、注意はしておかなければならない。


「皆に迷惑をかけたことは、反省してる。……だからもう……」
「そうだ。今後、絶対に一人であの場所を歩くんじゃない」
「え?」


そう、怒ることともう一つ、伝えておくべきこと。


「どうしても行きたいって言うんだったら、オレが同行出来るときだけにしておけ」
「でも、迷惑じゃないか」
「黙って行かれる方がよっぽど迷惑だ」
「だから我慢する」
「我慢、出来る、タイプじゃ、ないんだよ、お前は」


ビシビシ、と額を指でつつく。



 

「あぅあぅ……」
「わかったか」
「わかった、わかった」
「よし」


すごすごと教室をあとにする。


……。

 

 

 

男生徒「おいお前」



 

教室を出ると、数人の生徒がオレを取り囲んだ。


男生徒「お前、2年のボディーガードだな? 確か麗華さまのボディーガードだったな」


「だからなんだよ」


男生徒「口の利き方に気をつけろ。それに、神崎さまとはどういう関係だ」


「お前らが勘ぐるような関係じゃねえよ」


男生徒「だから口の利き方に気をつけろっ!」


「うっせーよ」


どうせ、なにを言おうと暴力沙汰にならない。

そんなことをすれば、こいつらは一発で退学だ。


男生徒「くっ、てめぇ……」


睨む視線を無視して教室へと戻った。


……。

 

 

 

 

「どこに行ってたんだよ、海斗」
「ちょっとな」
「昨日のことでお礼を言いたい」
「別にいい。つーか、余計なこと言うな」


横にいる麗華には秘密で外出したんだ、バレたらどんな小言を言われるかわかったもんじゃない。



 

「もう聞いてるわよ」

「げっ」

「随分と、神崎先輩に入れ込んでるわね」

「んなことねぇよ」

「そうかしら? 南条も気をつけたほうがいいわよ」

「と、言いますと?」

「神崎先輩を狙ってるかも知れないわよ、コイツ」



 

「なに!?」

「そんな怖い形相で睨むな。ありえないから」

「そうは言っても、あんたにしちゃ入れ込みすぎ」



 

 

「ふむふむ。これを学園に提出すれば、海斗は停学と」


メモに書き込む妙。


「急にわいてくるな虫」

「誰が虫かっ!」


──!


ちびっ子妙のメモを破り捨てる。


「あぁっ、その紙が一枚いくらすると思ってんの!」

「2円」

「2円って、お金じゃないし!」


いや、立派にお金だからな。


──「ここにお嬢さまに恋したボディーガードがいると聞いて飛んできました」


「いないから引っ込んでろ侑祈」


「か~い~と~ぉぉぉ~」

「だから違うっつーに」


危なっかしすぎて、ちょっと放っておけないだけだ。


「私は別にいいけどね」

「いいんですか!? よくありませんよ!」

「ふむふむ。海斗禁断の恋、相手はあの神崎……と」


──!


「だからメモるなって」



 

「また破ったな! これで海斗の命が3個買えるのに!」


オレの命は紙切れのように安かった。


「だったら鼻にでも詰めて再利用しろ」


小さい鼻の穴に、丸めた紙切れを突き刺した。


「な、なにふるっ! 侑祈も黙って見てないで止めろ!」

「いや、海斗は妙ちんに触れてませんし」

「そのとおりだ。うあはははは」

「う、うぅ~」

「私にもやらせなさい、海斗」

「じゃあもう一枚の破れたやつを使え」

「れ、麗華~~!」



 

その後も、麗華は妙をからかい続け、薫はオレを睨み続けていた。


…………。

 

……。

 

 

 

 

 

昼休みになり、麗華と教室を出た。



 

 

「お昼ね。神崎先輩のところに行きたい?」
「別に」
「素直にお願いすれば、行ってやらないこともないけど?」
「別に」
「素直じゃないわね」
「何度も言うが、別に恋愛感情はない」
「だったら、なんでそこまで入れ込むのよ」
「それは言えん」
「だから怪しいんじゃない」
「いいから食堂に行こうぜ」
「まぁいいわ。あんたがそれでいいんならね」
「自分のボディーガードに恋愛を勧めるなよ」
「どうして?」
「どうしてって……万に一つ、オレが神崎に恋愛感情を持ってたとしよう。それが学園にバレたら、即退学だ」
「そうね」
「当然、麗華は庇ったりしないだろ?」
「当然」
「そしたら、お前はボディーガードがいなくなる。つまり満足に外出も出来なくなるってわけだ」
「そうなったらそうなったで構わないわ。あんたがいなくなれば、私一人で過ごすだけよ」
「後ろに下がるってことを知らんな」


……。

 


食事を初めて、数分経過した頃……。



 

 

「……じーっ」


なにやらこっちを見つめる存在がいた。


「じじーっ」


「あんたを呼んでるんじゃない?」

「憶測だろ? それは」

「確かにね」


神崎の隣にいた薫は、こっちを睨みながら近付いてきた。


「なんだ。このオムライスが欲しいのか?」

 

 

 

「違う。麗華さま、少しよろしいですか?」

「このスープならあげないわよ?」

「違いますっ。その、ご同席させていただきたいのですが……」

「えっ?」

「私と神崎さまも、こちらの席で食事をと。大変身勝手なお願いで、恐縮なのですが」

「あんたも大変ね。別にいいわよ」

「太っ腹だな」


──!


「そこで腹を見るな、腹を」


テーブルの下から、スネを蹴り飛ばされた。


「神崎さま、許可をいただくことが出来ました」

「こくっ」

 

ストン。


「なんでオレの隣に腰を下ろす」

「……なんで?」


それはオレの質問だ。


「神崎さま、お気分は大丈夫ですか?」

「ばっちり」

「店員が注文を承りに来ましたよ」

「ん……これと、これと、これが欲しい」

「メニューを指さすな、女子校生じゃあるまいし」

「女子校生、だけど?」

「……そうだったな。とにかくメニューを指さすのはやめろ。店員からしたら、注文を取りにくいだろうが」

「優しいわねー」

「優しくねーよ」


「じゃあ、きのこのパスタと、サラダ、それからアイスソーダ下さい」

「薫も突っ立ってないで注文しろよ」

「私もか?」

「昼飯を抜きたいんだったら止めねぇけど?」

「いや……そうだな。同じものを下さい」

「……で、そろそろ座れよ」

「しかし」

「ぼけっと立たれてると気になるのよ」

「私が隣に座っても?」

「なによ、セクハラでもするの?」

「しません!」

「だったら座れば?」

「は、はい……では失礼します」


「律儀なヤツだな」

「当たり前のことだ。無許可で腰は下ろせない」


「つーか、なんでここで食うことにしたんだよ」

「なんでって、キミが、いるから」

「なんだよソレ」


「か、神崎さま……そんな発言をされては困ります。勘違いをしたオオカミが、なにをするか」

「勘違いしないから安心しろ」

「そんなものは信用できん」

「……そうかよ」


アホらしい会話に背を向ける。


「ねえ、神崎先輩。一つ聞いても?」

「ん?」

「南条の前で言うのもなんだけど……もしかして海斗をボディーガードにしたいの?」


「っ……」

「おいおい……」


「その辺真面目に答えてもらえれば、検討しないでもないけど」


麗華は麗華で、とんでもないことを言う。


「いらない」


すっぱりとした返答だった。


「そりゃそうだろ。何倍も優秀な薫がいるんだぜ?」

「でもそれじゃあ、こいつに関わろうとする理由がわからないわ」

「ボディーガードじゃなくて」

「じゃなくて?」

「ともだち、って言えばいいのかな……。こんなときなんて言えばいいか、わからない。こんな気持ちになったことがなかったから」

「確かに……私たちが同年代の異性と仲良くなりたいと思うことは、普通ないものね。そういうことであれば、なにも言えないわ。教師やあなたのご両親は、快く思わないでしょうけど」

「平気」

「根拠を聞いてみたいけど、怖いからやめておくわ。この男、常識がないから気をつけて」


「そのことは十分理解しているつもりですので」

「睨むなよ」


……。

 

 

 

 

 

オレなんかと、友だちに、ねぇ……。

面倒なことにならなきゃいいが。

少なくとも、オレ自身は退屈しないですみそうだ。


……。