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-ノベルゲーム・タイピング-

CHAOS;CHILD らぶCHU☆CHU!!【5】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
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Twitter─ @Zippydle_s
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渋谷カフェLAXは拓留たち碧朋学園新聞ご用達の喫茶店だ。

普段は拓留や伊藤がだらだらと無駄な時間を過ごすことの多いこの店だが、この日は珍しく華やかな香りが漂っていた。

 

 

 

「そっか。そんじゃ、今日は華ちゃんのところでシャワー借りてたんだ」

「そういうこと。すまないねー、華」



 

「それは言わない約束……かも」



 

「言ってくれればうちのお風呂、使わせてあげたのに」

「いやぁ、来栖先輩のとこって、ご家族多いじゃないっすかー。だから、なんか申し訳なくって」

「うちならかまわないわよ。なんなら、一緒に入る?」

「う……来栖先輩とお風呂……それはちょっと遠慮しておきます」



 

「あら、どうして?」

「だって……いろいろ自信なくしそうですし。どうせ入るならうきとで」

 

 

 

「……心外です」

「あ、ごめんごめん、冗談から! そんな哀しそうな顔しないで!」



 

「……私も冗談です」

「あー、うき~! このぉ、こうしてやるぅ!!」

「ふぇ……ほっぺ、引っ張らないれくらさい。いたい……れす……」


拓留の住居にはシャワーが無い。

雛絵はこれまで、学校帰りに近くの温泉施設に行くか、あるいは学園にある運動部用のシャワールームを使うかしていたが、この日は生憎とどちらも使用できなかったのだという。



 

「でも、華ちゃんとこの寮も、最近厳しかったんじゃないの?」

 

 

 

「昼間は大丈夫……かも……」

「いやー、おかげで助かったわー」


さすがに年頃の雛絵にとって、一日シャワーを浴びられないというのは死活問題に等しい。

しかも絶賛、宮代拓留の気を引こうとしている最中であるからには、不潔な状態でいるわけにはいかなかった。



 

「で、どうなの、拓留は?」

「全然だめっす。こっちから近づけば近づくほど、遠ざかる感じっていうか……」

「でしょうねぇ。あの子、基本的にあまのじゃくだから。気を引こうとすればするほど、拒否するんじゃないかしら」

「あー……やっぱそうっすかねぇ……」


雛絵としても薄々感じてはいた。

しかしながら一度大きく宣言した手前、引くに引けず突っ走ってしまったという次第だ。

いや、相手が拓留以外の男子であったなら、いくら雛絵でもそれほどムキになることは無かったのかもしれない。


(そこなのよねぇ……)



 

そう。雛絵自信にも不思議だった。

どうして、自分がこんなにも宮代拓留に拘るのか。

そもそも家出を決め、どこに行こうか考えた際、まず真っ先に浮かんだのが拓留の住居だった。

それも雛絵にとっては、不可解な点のひとつだった。


単に母親への当てつけというだけなら、選択肢はいくつもあった。

それがなぜ、拓留の住居を選んだのか。


単に場所が近かった、というのもあるかもしれないが、それだけではないような気もする……。


「ねえ、有村さん。この前も言ったと思うけど……」


頭を抱える雛絵に、乃々は前置きしてから言った。



 

「拓留のことだから、過ちはないとは思うわ。でも、ほどほどにしておきなさいよ」

「…………」

「なに?」

「来栖先輩は良いんですか?」

「なにが?」

「だってー、私がやってることって、言ってしまえば、宮代先輩を弄んでるようなもんですよ? そういうの、腹が立ったりしないんすか?」


血はつながっていないにせよ、拓留な乃々にとって義理の弟にあたる。

それに、もしかしたら乃々は拓留に少なからず好意を抱いているのではないか……そう思うこともあった。

雛絵にとってはそれが憂いの種でもあったのだが……。


「拓留だって子どもじゃないんだもの。仮に弄ばれたとしたら、それは本人の責任だわ。それに……」



 

乃々に真っ直ぐな瞳で見つめられ、雛絵は思わず引き込まれそうになった。


「あなたは気づいてないかもしれないけど、私これでも有村さんのこと買ってるのよ? だから、ただ相手が悲しむだけのようなことはしないって信じてる」



 

乃々が真実、心からそう考えているのだと、雛絵にはわかった。

乃々だけじゃない。

この新聞の人たちは皆、何故か雛絵のことを買いかぶっている。


それが雛絵には不思議だった。

けれど、だからこそ新聞部は、雛絵にとって居心地のいい場所でもあるのだが。


「でもさー、ひなちゃん。もし思惑どおり、タクがひなちゃんにめろめろ? になったとしたら、ひなちゃんはどうするの?」



 

言われて、雛絵は考え込んだ。


最初は母親への当てつけ。

それがいつの間にか、自分を一切女の子として見ようとしない拓留への、意趣返しに変わっていた。


けれど──。


「………」


この先、拓留が少しでも自分に惹かれるようなことがあれば、その時点で勝負は雛絵の勝ち。


じゃあ、その先は?


「……そういえば、どうするんだろ?」

 

 

 

「……まさか、考えてなかったんですか?」

「あははははー……ついつい突っ走ってここまで来ちゃったけど、なーんも」

 

 

 

「やっぱり前言撤回。有村さんの見る目、もう一度考えなきゃいけないみたいね」

「あー。ひっでー」



 

「やれやれ……かも……」

「華まで!」



 

「すみませーん。グレープフルーツジュースくださーい」

「って、こっちは聞いてないし!!」

「う? なにが?」

 

 

 

「もう、世莉架ったら……」



 

「ぷっ」



 

「ふふふ」



 

 

「やれやれ」

「うー???」


………

 

 

……

 

 

 

 

帰りの道すがらも、雛絵は先ほどの世莉架の問いに対する答えを考えていた。

 

 

 

 

『でもさー、ひなちゃん。もし思惑どおり、タクがひなちゃんにめろめろ? になったとしたら、ひなちゃんはどうするの?』

 

 

 

 

果たして、この意地の張り合いに勝利した暁には、雛絵はどうするんだろう。


(宮代先輩が私に……)


その時は──。


(うーん。せっかくだしー、ちょっとくらいは付き合ってあげてもいい……かも? 何回かはデートしてみたり? そしたら、そうだなー……どこ行くかなー。遊園地……は先輩は嫌がりそうだしー……。身体を動かすようなところはNGだから……。話題の美術館とか展覧会とか?)



 

(あ! 科学博物館ていうのもありかも。宮代先輩のことだし、事前にいろいろと調べてくるんだろうなぁ。で、前から知ってたように説明して。私はそれを、感心して聞いたり。あ、意外と水族館、なんてのもいいんじゃない? でもやっぱりたまにはテーマパークなんかに無理矢理連れてったりして……)

 

 

 

(先輩のことだもん、面倒くさい、なんて言いながらも、ついてきてくれるんだよね。うーん、でも先輩って絶叫系とか苦手そうだし、ホラー系もダメそうだし。ふふっ。でも私の前だと強がっちゃったりしてぇ……)


──「おい、お前」


「え?」



 

 

考え事をしながら歩いていたせいで、前方から見知った顔が近づいていたことに雛絵は気づいていなかった。

わかっていたなら、たとえ向こうが雛絵を視認していたとしても、途中で道を変えたものを。

それほどに、雛絵は目の前に立つ少女、久野里澪を苦手としていた。


「……なんか用すか?」
「何をニヤニヤしているのか知らんが、歩く時はちゃんと前を見て歩け」
「は? 別にニヤニヤなんてしてませんし」
「していただろう。遠くから見ていても気持ち悪いくらいにな」


小馬鹿にしたように言い残して、澪は通り過ぎていった。

けれど。


「…………」


今の雛絵にとってそんな澪の態度はどうだって良かった。



 

「にやにや……してた? 私が……?」


澪の言葉に"嘘"はなかった。

ということは、事実だということだ。



 

「あれ? 私……うそ……でしょ?」


その瞬間、雛絵はわかってしまった。


自分の心の"真実"を。

 

………

 


……

 

 



 

「悪いな、付き合わせちまって」
「まったく、どんな用かと思えば……」


休みだと言うのに、珍しく伊藤から連絡があった。



 

『頼む、宮代! 助けてくれ! 一生のお願いだ!!』

 


なんて必死な声で言うから慌てて出てみれば、何のことはない。

アイドルだかなんだかのイベント抽選券の配布会に一緒に並んでくれという話だった。

あれが一生のお願いというなら、実に安い人生だ。



 

「まあ、そういうなって。お前のおかげで、俺は今、超ハッピーなんだぜ。親友の幸せはお前の幸せでもあるはずだろ、な?」
「僕はお前のこと親友だなんて思ったことないけどな」
「うわっ、ひでー」


ここに有村がいなくて良かった。

いれば、もしかしたら今の言葉がウソだと指摘されていたかもしれない。

僕は珍しく伊藤が奢ってくれた、なんだかやたらと長ったらしい名前の、コーヒーにしては甘すぎる飲み物を啜った。

これが今日のお礼、というわけだ。


「そういや今日、有村はどうしてんだ?」
「香月のところへ行ったよ。シャワーを借りるってさ」
「ふーん」


残念ながら僕の住居にはシャワーがない。

僕は普段、近場のスパやまん喫なんかでさっさと済ましたり、面倒な時はタオルで拭くだけ、なんて日もあるけど、さすがに女子はそうもいかないらしい。

考えてみれば、これまでも有村はいつも清潔にしていた。

そういうところは、やっぱり女の子なんだと思う。

しかしこの生活が続くようなら、シャワーもどうにかしなければならないかもしれないな。


……ん?


待て。何を言ってるんだ、僕は。

この生活が続く?

そんなことあるわけないじゃないか。

今では、僕とのわけのわからない意地の張り合いみたいになってるけど、元々は有村の母親に対する変な当てつけから始まったことだ。

どうせすぐに飽きて、いなくなるはずだ。



 

「でさ、どうなのよ、ホントのところ」
「なにが?」
「決まってんだろ! 有村のことだよ」


伊藤は下衆な笑みをうかべて、肘で突いてきた。


「どうもなにも、別になんにもないよ」
「でも、有村はムキになって、あれこれアプローチして来てんだろ? あれでもほら、見てくれは悪くないわけだし、ちょっとは、こう……きゅんきゅんきたりとかしないのか?」


伊藤がこんな風に言ってくるとは意外だった。

もし僕に彼女が出来そうとなると、何が何でも阻止しに来るだろうと思っていたのに。

 

 

「あのなぁ。俺はそこまで心の狭い男じゃねーよ」
「とか言いながら、相手が有村だからだろ?」
「へへっ、バレたか。いや、だってさー、あいつ、俺のこと絶対に先輩と思ってねーし、もっと言やぁ、男として見てねぇもん」
「それなら僕だって同じだろ」
「そうかぁ? 俺にはそうは見えねえけどな」


通り過ぎるナイスバディのお姉さんを目で追いながら、伊藤は言った。


「……なんでそう思う?」
「うーん……なんつーかな。こう、俺に対する有村は容赦ねぇけど、宮代にはちょっと違うだろ?」
「そうか? たいして変わんないだろ」
「ンなことねぇよ。お前に対しての有村は、じゃれてるっつーか、楽しんでるっつーか」


よくわからない……。


「まぁ、お前にはそういう、女子の細かい心情はわかんねぇだろうな」
「まるで自分はわかってるみたいじゃないか」


伊藤に言われると、ちょっとムカつく。


「当たり前だろ。なんたって俺はお前と違って、少女漫画読んでるからな」


……一気に信ぴょう性が無くなったぞ、伊藤。


「そんなことないって。あれはただ、ゲームにムキになってる子どもだよ」

 

僕がそう言うと、伊藤は急に僕の方を向いてマジマジと顔を覗き込んできた。


「な、なんだよ……?」
「あのさ……わかんねえんだけど、お前こそ、なんでそこまでムキになってんの?」
「は? なに言ってんだ。なんで僕がムキになってるんだよ?」
「じゃあ言い方変えてやるよ、なんでそんな全部を全部否定しようとするんだ?」


否定?

意味が解らない。

どういうことだよ?


「そりゃあ、確かに最初は変な意地の張り合いで始まったことかもしんねぇけどさ、だからってお前までそう頑なになる必要ねぇだろ」
「だから別に僕は頑なになんか……」
「なってるよ」


珍しく真面目な口調の伊藤に、僕は少し驚いてしまった。



 

「だいたい、いくら有村でも、どうだっていいと思ってるやつのところに、転がり込んだりするわけねぇだろ」
「でも、あいつは他に行くところが無かったからって……」
「あの八方美人の有村が? 行くところなんていくつだってあんだろ」


……それは違う。


八方美人だからこそ、行くところがないんじゃないか。


ギガロマニアックスとしての有村の能力は、望むと望まないとに関わらず、相手の言葉が真実か偽りかを知ってしまうというものだ。

つまりそれは、相手がどれだけ上辺だけで付き合っていても、その心の裡(うち)がわかってしまうというものでもある。

そのために、有村はああしていつも明るくふるまっているんだ、と──。

心から安心して一緒にいられる相手がいないのだ──と。

それは以前、彼女自身がほのめかしていたことだ。


「だったらなおさらお前は、有村にとって安心して一緒にいられる相手だ、ってことになるんじゃねーの?」


……言われてみればそうなる。


「でも──!」
「だから、なんでそうやって否定したがるんだよ」


ムキに……なってるのか、僕は?

でも、どうして?


「んじゃ、質問を変えようか。もし有村が最初に尋ねて行ったのが、お前んとこじゃなくて俺のとこだったとしたら、お前どうする?」
「そんなの──」


……考えたこともなかった。

有村が、伊藤の部屋で毎日寝起きする……。

伊藤のためにご飯を作ったり、水着になったり。

笑ったり怒ったり泣いたり。

僕の知らない有村の顔を、伊藤が見て──。

あれ?

なんだ、このモヤモヤした気持ちは。


「なあ、伊藤……」
「あん?」
「僕、帰るよ……」
「え? あ、おい……!」

 

 

 

「やれやれ。世話の焼けるこった」


背後で伊藤が何かつぶやいていたけれど、雑踏に飲み込まれて僕の耳には届かなかった。


………

 

……

 

 

 

 

「ん……?」


伊藤と別れて住処に戻って来ると、中から人の気配がした。

有村、もう帰ってるんだろうか?


「…………」


くそっ!

伊藤が変なこと言うから、意識しちゃうじゃないか。

とはいえ、ここで引き返すというのも、伊藤に言われたことを認めるみたいで、癪に障る。


……


「ただい……」



 

 

そこに居た人物の姿に、僕の言葉は止まり、代わりに違う言葉が口から出た。


「お、お母さん……」



 

「あら。ひょっとしてしばらく来ないうちに"お母さん"って呼ばれる関係になっちゃったのかしら?」
「あ、いや、今のは言葉の"あや"で……」



 

「わかってるわ。冗談よ、冗談」

 

 

 

「つまんない冗談」

 

 


帰って来るなりこの空気、勘弁してほしい。

 

ここは僕の家だってのに。


……

 

 

 

 

「どうして来たのよ?」

「一応ね。ほら、この前来るって言ったから。私、嘘は嫌いなのよねぇ」

「……嘘ばっかり」

「の、飲み物でもどう……ですか?」

「あら、気が利くわね。ちょうど喉渇いてたの」


確か、その辺に水が……。

あぁ、そういえば切らしてたんだ。


「マウンテンビューで、いいですか?」

「なにそれ?」

「……ですよね。じゃあ、アップルティーで」


アップルティーだったら、有村のために常備してある。


「あ、私、アップルティー嫌いなの。そのマウンテンなんとかでいいわ」


ほんと、娘とは相容れないんだな。


「どうぞ」



 

有村の母さんは、差し出したマウンテンビューを一口飲んで、僅かに顔をしかめた。

やっぱり口には合わなかったらしい。


「えっと……それで、その……」

「話は言わなくてもわかってるわよね?」


有村に帰って来いって話であることは間違いない。

けれど当然、有村は拒否するだろう。

その為に、僕はまた例の台本とやらを手渡されたんだから。

いったいどんなことが書かれているのかという興味本位もあって、一応台本をパラパラ見てはみたけど、内容的には前とほとんど同じだった。


『僕は雛絵のことが好きだ』とか『離れたくない』だとか、そんなものだ。

けれど有村の母さんは、有村が僕のところに半ば無理矢理、居候していることを感づいている。

だから今さら、そんな芝居をしたところで茶番でしかない。


……まあ、最初から茶番は茶番なんだけど。

とはいえ、それを口に出すか出さないかの選択は、僕の意思がどこにあるのかを示すことにもなる。

台本通りに進めるということは、有村の作戦に乗る意思がある、ということだ。

有村の作戦に乗ると言うことは、彼女をここに泊めおくことも吝(やぶさ)かではないと表明するのと同義だ。

逆に、僕が早いところ有村を連れて帰って欲しいと願っているのなら、有村の仕掛けた茶番に乗らなければいい。

僕としては当然、早く平穏な自分だけの時間を取り戻したいわけで、どちらを選択するかは今さら考える必要もないことだった。


「雛絵。馬鹿みたいな意地を張るのはやめて、いい加減帰ってきなさい」

「…………」

「こちらの……宮代さん、だったかしら? あなたにも随分と迷惑かけてるでしょう?」

「僕は……」


そう、今さら考える必要もないことだった──はずなのに。

悔しいけど、僕はこの生活がもう少し続けばいいなと、たぶんそう思っている──。


……だから。


「い、いえ、僕は──」


「あぁぁぁっ!」


答えようとした僕の声を、有村が遮った。



 

「そ、そういえばママ。いない間に、私の部屋、勝手に入ってないわよね?」

「なに、いきなり?」

「いくら家族だからって、人のプライバシーを侵害したりしないでよ?」

「そんなことしないわよ。それに、今は大事な話をしてるんだから、そんな話は後になさい」


有村の母さんは、険しい顔で言うと、もう一度僕に向き直った。


「いい? あなたたちはまだふたりとも学生よ。今はお遊びで許されるかもしれないけど、もしこのままおかしなことになったら、あなたたちで責任とれるの?」


この問いに対する答えも、基本は前と同じだ。


「ぼ、僕はその、彼女のことが──」



 

「ママ! ママこそ最近は家に帰ってるのよね!?」

「……私だってこの前、あなたが家を出てから、少しは反省してるのよ。これまでのことも、これからのことも含めて、パパときちんとお話もしてるわ」

「そ、そう……」

「それより、今はあなたたちのことを話してるの。こんな当てつけみたいな家出の真似事しなくても、もしもあなたたちが本気で付き合ってるというのなら、私だって何もそれを咎めるつもりはないわ。でも、年相応の付き合い方というものがあるはずでしょう? そのあたりのことを、どう思ってるのかきちんと話してほしいの。どうなの、宮代さん?」

「だから僕は──」



 

「そうだ! ねえ、この前──」

 

「雛絵! 今は宮代さんに聞いてるの!」

「………」


いったい有村はどうしたっていうんだろう。

もしかして、僕があの台本通り言えるかどうか不安になっているんだろうか?

確かに、僕だって細かい台詞のやりとりまでは覚えていない。

それでも、一度流し読みはしているし、前回のことだってある。

おおよそのパターンはわかっているつもりだ。


「おい、さっきから何言ってんだよ、有村」


僕は有村にこっそり耳打ちした。



 

「せっかく僕が台本どおりにすすめようとしてるのに……」
「いいんです……もう……」


は……?


今、なんて言った?

もういい、って……そう言ったのか?


「待てよ。それってどういう……」



 

「当てつけみたいなことしてゴメンなさい、ママ。私、帰ります……」

「有村……?」

「は? なんなのいきなり。どうしてまた……」


当然、有村の母さんも、なぜ突然有村がそんなことを言い出したのか、理解できていないようだ。


「もちろん帰って来るなら、文句はないわ。でも、理由を説明しなさい、理由を。これまで散々心配かけておいて、説明もなしにいきなり帰るなんて、こっちだってわけがわからないわ」

「いいでしょ。私、帰るって言ってるんだから」

「よくないわよ。こないだはふたり口裏あわせて、妙なこと言ってたけど、あの遊びはもう終わりってこと?」


「──っ」

「気まぐれも結構だけど、それに付き合わされる人のことも少しは考えたらどう? くだらない嘘に付き合わされた宮代さんもいい迷惑よね?」

「あ、いや……」

「いいのよ、はっきり言ってあげて。そうじゃないと、この子、わからないんだから」


確かに最初は迷惑だった。

ついさっきまで、迷惑だと思っていた。

けれど、それでも──。


「その、僕は──」


いつしか有村のことが……。



 

「やめてっ!!!」

「…………?」

「迷惑かけたのはわかってる……だから言わないで……。声に……出さないで……」

「…………」

「ママ……先輩は最初から関係ないから……私が勝手におしかけて、無理矢理、居候してただけだから……」


有村はゆっくりと立ち上がった。


「先輩も、迷惑かけてごめんなさい」


そして深々と頭を下げると、そのまま隅に置いていたバッグを肩にかけ、そのまま振り返りもせずに出て行ってしまった。


(有村……)



 

「……なんなのよ、いったい」

 


僕こそ、言いたかった。

いったいなんなんだ。



 

「迷惑かけたわね。ごめんなさい……」


……

 

 

有村の母さんは、ため息交じりに言うと、しっかりとした足取りで有村の跡を追って出て行った。

 

帰り際に置いていった封筒の中には、お札が数枚入っていた。


………

 

 

 

 

久しぶりに静かな夜だった。

やっぱり、自分の部屋はこうじゃなきゃいけない。

なにせここのところ、自分の時間っていうものがまったくとれなかったからな。

これからは思う存分、やりたいことが出来るというものだ。


「まずは……そうだな」


僕は奥に隠していたクールキャットプレスを取り出した。

この前ゲンさんが持ってきてくれたクールキャット、有村がいたせいでまだ読んでなかったんだ。


「今回の特集は……オンナゴコロを徹底解剖! ね……」


ほんと、何考えてるかわからないな、女子って……。


……

 

 

 

「はぁ……」


飽きた!!

こんなもの読んだところで、女子の気持ちなんてこれっぽっちもわかるようになりはしないじゃないか。


「今、何時だ?」


スマホを取り出して時間を確認する。

と、さっきからまだ30分くらいしか経っていなかった。

時間の経つのって、こんなにも遅かったっけ?


「…………」


ふと遠くからパトカーの音が聞こえてきた。

何か事件でもあったんだろうか?

まあ事件なんて、ここ渋谷じゃ日常茶飯事だけど。

でも、ここ数日は、そんなこと少しも気にはならなかった。

というよりも、この部屋の中が賑やか過ぎて、外の音なんて一切気にならなかっただけだ。

……この部屋って、こんなにも静かだったっけ?


また一台、パトカーが通り過ぎていった。


(……有村……大丈夫かな?)


……って、何を言ってるんだ、僕は。

いくらなんでもさすがにもう家に帰ってるだろう。


──グー……。


「…………」


そういえばお腹が空いた。

何か食べる物でも買いに行くか……。

いや、それも面倒くさいな。

確か棚の奥に……。


あったあった。

買い置きの栄養バランス食品。

今日はこれでいいや。


「…………」


なんだこれ、マズい。

こんな味だったっけ?

それに、あっという間に無くなってしまった。

味気ないったらないうえ、これじゃあ時間つぶしにもならない。

何か気を紛らわせるものはないだろうか?


「ん? なんだこれ?」

 

 

 

ふと見ると、窓辺になにやら牛乳瓶みたいなものが置かれていた。


「花?」


一輪挿しってやつだ。

いつの間に、こんなものを置いてたんだよ。


そういえば……シンクのあたりが綺麗になってたな。

それに、洗面所も……。


「…………」


心なしか部屋の中が寒いような気がする。

きっと人数が減ったせいだ。

といっても、さすがに暖房を点けるほどのことでもないし、とりあえず上着でも羽織って……。


「あれ……?」


確かこの上着、裾のあたりがほつれてたはずなのに……。


「繕われてる……」


それも、お世辞にも上手いとはいえないし。


「なんだよ、これ……」


良いところ見せつけて、メロメロにする?

だったらこういうことこそ、ちゃんとアピールしろよ、あいつ。

そしたら僕だって、もう少し……。


………

 


……

 

 

 

 

「おはよう、拓留」


朝、学校に着いたところで、乃々に会った。


「ああ……」



 

「まったく、また朝からそうやって暗い顔して」
「悪かったな。僕は元からこんな顔だ」
「あら、今日は随分とご機嫌斜めね。また有村さんとケンカでもした?」
「あ、有村は関係ない!」

 

 

「……なにも、そんなにムキにならなくても……」


あ……。

 

 

「あらあら、またそんな皺だらけのシャツなんか着て」
「え……?」
「最近はちゃんとしてたと思ったのに、どうしたの……?」


シャツの皺なんて、今まで気にしたこともなかった。

着られれば一緒だと思ってた。

そうか……あいつ……。

 

「拓留?」

 

………

 

……

 

 

 

 

 

 

──キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン……。

 

昼のチャイムが鳴るなり、伊藤がやってきた。



 

「あー、終わった終わった。なあ、昼飯──」
「悪い、伊藤。僕ちょっと行くところあるから」
「ん? ああ、そうか。また有村の愛妻弁当かー」


………



 

確か有村の教室は……。

 

 

 

「あれ、タク?」
「ああ、尾上。いいところに」

 

 

 

「なになに、私に何か用かな?」
「あー、いや……」
「なぁんだ、私じゃなくて、ひなちゃんに用か……」


普段は察しが悪いくせに、こういう時だけ勘がいいな。

もしかして能力使ったのか?

まあ、どっちだっていい。



 

「あれ? でも今日ひなちゃん休みじゃなかったっけ?」
「そう……なのか?」
「う? タク、ひなちゃんと一緒だったんじゃないの?」
「あ、ああ……まあ、ちょっといろいろあって……」
「そうなんだ……」
「悪いな、ありがと」



 

「う、うん……」


………

 

……

 



 

 

 

「…………」


学校を休んだだなんて、いったいどうしたんだ?

やっぱり、この前あんな格好で料理してたから、風邪でも引いたんじゃ……。

それとも、家でまた何かあったとか。

……ああ、まただ。

僕はまた有村のことを考えてる。

昨日からずっとこうだ。

何かっていうと、あいつのことばっかり考えてしまっている。

起きてから学校に向かう間も、授業中も休憩時間も帰ってからも。

どうしてこんなに……。

いや、その理由は自分でももう、とっくにわかってる。

有村に会いたいんだ、僕は。

うるさくて、調子が良くて気分屋で、面倒で鬱陶しいなんて思ったこともあったけど、それでもあいつといると、僕は楽しいんだ。

楽しかったんだ。

この何日間かが。

そうだよ。

認めよう。

勝負は僕の負けだ。

君の勝ちだよ、有村。

僕はきっと、君に惹かれてるんだ。

くだらない意地の張り合いから始まった争いだったけど、それでも勝負は勝負だ。

だから、せめて『まいった』くらい言わせろよ。


「…………」


スマホを取り出して有村の名前を呼び出す。

何か言葉を打とうと思って、指が止まった。

こんな文字にした言葉じゃ、本当か嘘かわからないじゃないか。

僕は、ちゃんと声に出して伝えなきゃいけないんだ。


「あ…………」

 

 

 

『迷惑かけたのはわかってる……だから言わないで……。声に……出さないで……』

 

 

 

あの時の有村の言葉。

ずっと違和感を覚えていた、あの言葉。

あれはもしかしたら……。

"僕の言葉の真偽を知りたくなかった"ってことなんじゃないのか?


「──!!」


僕は、あの日放り出したままにしていた有村の台本のページを捲った。


『僕は雛絵さんのことが好きなんです!』

『だから雛絵さんを帰したくありません』

『これが嘘偽りのない僕の気持ちです』


「……やっぱ文芸部、向いてないよ、あいつ……」


もしもあの時、僕がこの言葉を口にしていれば、有村は否応なくそれが本当か嘘かわかってしまっただろう。

たとえそれが作られた台詞だとしても。

じゃあ、どうして有村は僕の本心を知りたくなかった?

もしも僕の言葉が偽りでなかったとしたら──それは、僕が有村を本当に好きだ、ということになる。

その場合、有村が聞きたくなかった理由はひとつ。


僕に好かれているという事実を知りたくなかったということだ。


どうして?


僕が有村のアプローチに負けて、有村のことを本当に好きになっていたら困るから?

好きでもない相手から本気で好意を持たれても困る。だからこそ僕を拒絶した──そういうことになる。



 

でもあの時の有村は心細げな……今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔をしていた。

あれが、誰かの好意を拒絶する人間の顔だろうか?


僕にはそうは思えない。

じゃあ、他に理由は?

もうひとつ、考えられる理由があるとすればそれは──僕の言葉が嘘だった場合だ。

台本通り『有村の事が好きだ』と、そう告げた僕の言葉が偽りであるなら、実際には僕は本当は有村を好きじゃない、ということになる。

もしも、有村がその事実を知ってしまうことを拒絶したのだとするなら、それは何故だ?



 

(まさか、有村も僕のことを……?)


自分が好意を寄せている相手が、もしも自分のことを好きでなかったら──。

その事実を知るのが怖いから、有村はあの時、僕に声に出すなと、そう言ったんじゃないのか?

もちろん、僕のことを嫌になり拒絶したという可能性だって有り得る。

でも僕は、もうひとつの可能性を信じたかった。

有村が僕を好きだという可能性を……。

だとしたら、僕はなおさら彼女に会わなきゃいけない。

会って気持ちを声にして伝えなきゃいけない。

事実を確かめるために。

でも果たして、有村は会ってくれるだろうか?

……違うな。

会ってくれるか、じゃなくて、会うんだ。

絶対に。

もう一度、僕の気持ちを声に出して伝えるために。


………

 


……

 

 

 

 

 

「教室にはいないみたいだねぇ。どこか行っちゃったのかなぁ」
「そうか。それじゃあ、もし見かけたら連絡してくれ」

 

 

 

「おっけい」

 


休憩時間ごとに尋ねてきているというのに、教室に有村の姿はなかった。

だが学校に来ていることは、クラスメイトに聞いて確証を得ている。

やっぱり僕のことを避けているんだろうか。


……


──キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン……。

 

 

 

昼休みのチャイムが鳴ると同時に、教室を飛び出した。


……

 

 

 

一目散に走って、2年の教室が並ぶ階へ──。


……

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」


有村は……!!

 

 

 

 

「あっ!!」

 


「有村っ!!」


やっと会えた!


だが──。


「──っ!!」


僕の顔を見るなり回れ右をして走り出す有村。


「おい、待てって!!」


しかし、当然待てと言われて待つヤツはいないわけで。


……


「有村っ……!!」


有村の背中が、少しずつ近づいてくる。

よし、この調子なら追いつけ──。


──「え?」


「うわっ!!!」


──ッ!!

 



 

「あいたたたたた……」
「っつー……」
「おいおい、宮代くん。廊下は走っちゃいけないって、子供の頃言われなかったかい?」
「す、すみません……」


そんなことより、有村は!?


「…………」


すでに、廊下の向こうに姿を消してしまっていた。

せっかくのチャンスだったのに……。


「はぁ……」



 

「あ、あれ? 僕、なにか悪いことしたかい?」


………

 



 

「その様子じゃ、またいなかったみたいだな」


教室に戻った僕の様子から状況を察したのだろう。伊藤が声をかけてきた。


「それにしても、なーんか有村らしくねえよなぁ。こういう時、当たって砕けろで突っ込んでいきそうなタイプなのに」
「……いや、有村らしいよ」


確かに、普段のただ明るく騒がしい有村を見ていると、そう思うだろう。

だけど、今の僕にはわかる。

それはすべて有村の仮面でしかないのだと。

望んでもいないのに、他人の嘘にずっと触れてきた有村は、ああして明るい仮面を被ることで、これまでずっと周囲とのバランスをとってきた。

けれど、その奥にいたのはきっと、常に他人の言葉の裏に潜む本心を伺い、びくびくと怯えていたひとりの女の子だったんだ。

それでも彼女は今まで、決して逃げ出すことなく、目を逸らすこともなく過ごしてきた。

それが有村雛絵の強さだった。

じゃあ、今回に限ってなぜ逃げ出したのか。

それはきっと、彼女が本気だからだ……と、僕はそう思いたかった。



 

「ふ~ん」

 

 

伊藤は考え込んだ僕の顔を、笑みを浮かべて見ていた。


「な、なんだよ?」
「いやぁ、お前もちゃんと見るとこ見てんだなって思ってさ」
「……もっと早くに気づいていれば良かったんだけどな」


それよりも今は、とにかく有村に会わなければ。

じゃないと、なにも始まらない。


けれど──。

 

 

 



その後も、休憩時間や放課後に至るまで、学園中のどこを探しても、有村を見つけることはできなかった。


………

 

……

 

 

 



 

「はぁ……」


疲れた。

なんだか、僕はいつも有村を捜しているような気がする。



 

「やっぱ、授業終わってすぐ帰ったんじゃねぇの?」

「そう思って下駄箱で張ってたんだけどさ……」


有村は玄関にも姿を見せなかった。

後で確かめると、下駄箱には下履きどころか上履きさえ入っていなかった。

僕の行動を予測し、放課後になる前に下履きを回収しておいて、どこか別のルートから学校を出たに違いない。

そこまでして僕を避けてるってことか?



 

「こうなってくると、お前、ちょっとしたストーカーみたいだな、宮代」

「伊藤くん。そういうデリカシーのない言い方、やめなさい」

「でも、ひなちゃんもいつまでそうやって逃げ回ってるつもりなんだろねぇ」

「確かにな。そう、いつまでも会わないってわけにもいかんだろうに」

「もしかしたら、転校とかしちゃう気かも……」


さすがにそこまではしない、と思いたい。

とはいえ、あの有村のことだ。やらないとも言い切れない。

それに僕はとにかく1日でも、いや、1時間でも1分でも早く有村に会いたかった。

有村に会って、僕の気持ちを声にして伝えたかった。

今のままじゃ、僕だって有村だって、ただ無駄に辛い気持ちを増幅させるだけだ。



 

「有村さん、まだ渋谷にいる、なんていうことはないのかしら?」

「なぁ宮代。お前、有村が行きそうなところとか、心当たりないのか?」

「有村の行きそうなところ……。ダメだ。考えてみたけど、見当もつかない」


こんなことなら、もっと一緒に出掛けたりしておけば良かった。

そうすれば、少しは思い出に残る場所があったかもしれないのに。


「やっぱ、明日学校に来るのを待つしかないのか」

「そうね。伊藤くんの言う通り、いつまでも顔あわさずにいるっていうわけにもいかないでしょうし、そのうち必ず会えるわよ……」


そのうち、か……。

ていうか、さっきからドンドン鳴ってるこの音はなんなんだ?



 

「ん-!」


「なんだ、香月……いたのか……」



 

「香月。いくらゲームが行き詰まったからって、そうやって壁を叩いちゃいけないっていつも言ってるでしょう」

「わかった……かも」


香月がPCのモニターを指さして言った。

 

 

 

「あ、なんだ? イベントの攻略法でもわかったのか?」

「ひなさんの居場所……わかった、かも……」

 


「なに!? ホントか!?」

「ん……」


僕は香月の元に駆け寄ると、身を乗り出してモニターを覗き込んだ。

画面には渋谷の地図が映し出されていた。

そしてその中にひとつ、点滅する赤い印があった。


「ひなさんの……スマホの位置……かも……」


ひょっとしてGPSか?

でも、あらかじめアプリを入れてない限り、たとえ電話番号がわかっていたとしても、そんなに簡単に位置情報の取得なんてできないはずだけど……。


「香月……どうやってこれを……?」

「知り合いのエンスー仲間に……相談してみた……かも」

「お前の知り合いって、いったいどんな奴なんだよ?」


同感だ。

いや、でもとにかく助かった!!

 

「でかした、香月!!!」



 

「ていうか、タク。ここって……」


赤く点滅している位置を改めて確かめる。

と、そこは──。


「宮下公園……?」


もしかして、僕の住処!?

どうして? 忘れ物でもしたのか?

それとも……少しは寂しいと思ってくれてるのか?



 

「拓留。考えるのはあと。今は動かないと!」

「あ、ああ……!!」


……



 

……



 

 

有村はたぶん、僕を待っているわけじゃない……。

となると、すぐに移動する可能性が高い。

その前に、なんとかして有村を捕まえなきゃ!


………

 

 

 

(有村……)


僕は通いなれた家路を、ただ只管(ひたすら)に走った。

何十回、何百回と往復してきたこの道だが、たぶんその中でも一番の速さだったに違いない。


………

 

 

 

(有村……っ)


──!



 

「有村っ!!」


蹴破りそうな勢いでドアを開け、転がるように上がり込んだ。


が──。


「はぁ……はぁ……」


そこに有村の姿は無かった。

くそっ、一足遅かった……。


──!


電話!?


そうだ。香月が──!



 

「僕だ!」
『タク? よかった、やっとつながった!』
「尾上! 有村は──」
『ついさっき、そこを出て、今は駅へ向かってる。今ならまだ追いつけるよ』
「そうか! ありがとう!!」
『……タク』
「ん……?」
『しっかり!!』
「……ああ!」


………

 

 

 

早く!

 

………



 

早く!!!

 

………



 

「あ……!」


あの後ろ姿は──。


「有村っ!!!」

 

 

 

 

「え……!?」


有村は僕の顔を見るなり逃げ出そうとしたが、それよりも早く僕は彼女の腕を掴んだ。



 

「や、やっと……捕まえた……!」
「宮代先輩……」


怯えたような瞳が僕を見て──。

そして、すぐに目を逸らした。



 

「どうして逃げるんだよ?」
「だって……」
「聞いてくれ、有村」



 

「いやっ、聞きたくない!」


有村は僕から逃れようともがいていたが、やがて諦め、脱力したように力を抜くと、ぽつりと言った。


「先輩……私ね、昔からずっと、本当のことが知りたかった……」


有村……。


「うちの家は、パパもママも嘘ばっかり。口では愛してる、なんて言いながら、自分たちは外で好き勝手やって……。だから、私はずっと、本当のことが知りたいと思ってた。言葉の奥に隠された、本当の心が……」


有村は僕と目を合わせようとはしなかった。


「だからこの能力は私が望んだ能力。この能力さえあれば、私は幸せになれるはずだった……」
「…………」
「でもね……でも、現実はまったく逆。本当のことなんて知っても、何も幸せなことなんてなかった……」


道行く人たちが、遠慮ない視線で物珍しそうに僕たちを眺めてゆく。

それでも有村は続けた。



 

「この世界に、嘘のない人なんていない。誰だってみんな嘘をついて生きてた……。両親もお兄ちゃんも、友達も先生も、偉い政治家の人だって、みんなみんな嘘をついてる……。もちろん、その中には悪くない嘘もあった。だけど、耳をふさぎたくなる嘘もたくさんあった……」


泣いているのか、それとも怯えているのか、有村の手は僅かに震えていた。

僕は有村のそんな言葉を黙って聞いていた。


「私のこと、言葉では友だちだっていいながら、心の中では嫌っている子もいた。毎日ずっと一緒にいるのに。笑いあってるのに、本当はお互い嫌い合ってる子たちだっていた……」


スクランブル交差点の信号が青に変わり、人の波が動き出す。


「だからね……私は私自身を嘘で塗り固めることにしたの。誰とも本当の心で向き合わなくてすむように……。そうすれば誰かが嘘をついていたとしても、心は痛くならないから……」


そうだ。

嘘を一番嫌っていた有村が、一番嘘をついていた。

自分の本当の心に。

でも、僕は思う。

それもきっと嘘なんだと。

たとえ嘘で塗り固めた自分だろうと、誰かの嘘を突き付けられて、心が痛まないわけがない。

むしろ、自分が嘘をついているという後ろめたさが、傷ついた心を更に痛めつけるはずだ。

 

 

「そうやって自分を嘘で固めるうちに、私はだんだんと嘘に慣れていった。他人の嘘も平気で受け止められるようになっていった。もう、誰かの本当の気持ちを知るのが怖いだなんて、そんな風に思うことはないはずだった……」


不思議と静かだった。


「そうだよ……ずっと嘘のつもりだったのに……」


行きかう車の音も、すれ違ってゆく人々の声も僕には届かない。

呟くような有村の声だけが、僕の耳を震わせる。


「ただ、人の良い先輩をからかって甘えて……それだけのつもりだったのに……」
「有村……」
「それなのに……」


不意に顔を上げた有村の瞳には、膨れ上がった不安が涙となって溢れていた。


「それなのに、今は怖いのっ。嘘だったはずの自分の気持ちも! 先輩と会えない時の寂しいっていう気持ちも、なにもかもが……」


点滅していた信号が赤に変わる。


「でもなにより……先輩の本当の気持ちを知るのが怖い……」
「でも僕は──!」
「もしもっ!」


有村が僕の言葉を遮る。


「もしも先輩が、私のこと好きだって言ってくれても……その裏側に別の気持ちがあったとしたら……。それが偽りだったとしたら……」
「…………」
「そんな言葉なんて、聞きたくない……」
「有村……」

 

 

 

「先輩の口から……好きなんて言葉、聞きたくない……。だから……」


するりと、手の中のぬくもりが。


「さよなら……」


──!



 

 

消えた。


「有村っ!!!!」


伸ばした手をすり抜けて、有村は赤く変わったばかりの交差点に飛び出した。

走り始めていた車の間を抜け、クラクションと怒号の中、有村の背中が小さくなってゆく。


「待て、有村っ!!!」


ここで伝えなければ、この先もう二度と僕の声は届かない──。

何故かそんな気がして、僕は──。



 

「僕はっ──!!」


スクランブル交差点の対岸に向かって、喉が張り裂けるほどに叫んだ。


「僕は君のことが──!!」


彼女に届けるために。

 


「大っ嫌いだああああああああああっ!!」



 

 

 

「──!!」


振り返った有村の瞳が僕を見据えた。


「僕は君が、大っっっ嫌いだあっ!!!!」


信号待ちの人々が何事かと僕を見る。


『ひどい』『かわいそう』そんな声が耳を打つ。

それでも、僕は叫び続けた。


「友だちの前では取り繕って、上辺だけ良い子に装ってるところも! 騒がしいところも、わがままなところも、意外と甲斐甲斐しいところも、本当は寂しがり屋のくせに意地張ってるところも、誰かを傷つけたくなくて自分ばっかり傷ついてるところも!」


"好きだ"なんて聞きたくない?

だったら言ってやるよ。

僕の気持ちを。


「全部全部、ぜーんぶ!」


君ならわかるだろ?

僕の気持ちが。


「だいっきらいだああああああああっ!!」


本当の……気持ちが……。


「…………」


「はぁ……はぁっ……」


信号が……変わる。

止まっていた周囲の景色が流れ始める。

そんな中、ゆっくりと。

ゆっくりと有村が歩き始める。

僕に向かって。


「っ……!」


踏み出した足は次第に早まり。


「──!!」

 

 

 

いつしか僕も走り出していた。


「先輩っ!!」

「有村!!!!」

「先輩っ!」

「有村っ!!!」

 


そして、僕たちの距離はゼロになった。

 

 

 

「もう一度言う……僕は君が嫌いだ……」


僕の腕の中、しっかりと僕の目を見た有村が頷く。


「うん……」
「大っ嫌いだ……」
「もう一回……」


何度だって言おう。


だいだいだいだい、大っきらいだ」
「先輩の……嘘つき……」


やがて信号は青から赤に変わり、クラクションが聞こえ始める。

それでも僕たちは、抱き合っていた。

渋谷の真ん中、このスクランブル交差点で。

互いのぬくもりを感じながら。


「先輩……」
「ん……?」
「大好き……」


………

 

……

 

 

それから数日──。



 

「だから何度も謝ったじゃないか」
「謝ってすむくらいなら、マッポはいらんぜよ」

 

 

 

 

「ちーっす」

 

 

 

 

「じゃあ、どうしろって言うんだよ?」

「そんなの自分で考えてくださいよ」



 

「おいおい、えらく賑やかだと思ったら、何の騒ぎだ?」

「それが、タクとひなちゃんが……」

「なんだよ、おまえら。ケンカか?」

「ほっときなさい、伊藤くん」

「いや、そうは言っても、廊下にまで聞こえてるしさ……」


「とにかく僕はもう謝らないからな」


「おい、宮代」



 

「はっはぁ~ん……なるほど、そうですかそうですか、そういうことですか」


「有村もさ……なんだか知らないけど、それくらいに……」



 

「そういうことって、なんだよ?」

「さては先輩、私の事なんて嫌いになったんでしょ」

「はぁ?」

「そうだ。そうに違いない。だからそんなこと言うんだ」

「おい、わけのわからないこと言うなよ」

「わけわかんなくないもんっ」

「あのなぁ……あんまりわけわかんないことばっかり言ってると、ほんとに嫌いになるぞ」



 

「っ……!」


「み、宮代!! お前、それはさすがにダメだろ」


「先輩……」


「有村も、落ち着けって。な?」

 

 

 

「先輩っ…………好きっ!!!」

 


「はあああああああああ?」

 

 

 

「もうっ。私のこと、そんな風に思ってくれてるなんて嬉しい! 大好きっ!」
「お、おい……こら、抱きつくなって」



 

 

「な、なんじゃそりゃああ!?」

「だから言ったのよ……」

「タクとひなちゃん、相変わらずラブラブだねぇ」



 

結局、あの日から僕たち──雛絵と僕は、付き合うことになった。

正直な話、最初の頃は僕だって不安だった。

もしふとした瞬間に僕の気持ちが離れてしまったらどうなるのか。

たとえばそう──さっきみたいに、ケンカになった時なんかだ。

けれど、実際付き合い始めてみてわかった。

本当の気持ちが相手に筒抜けというのは、それはそれでお互いの気持ちを常に確認できるということでもあるのだ。

さっきのように突発的にケンカしたところで、その奥にある僕の気持ちが雛絵にはスケスケなんだから、結果、ケンカも長続きしない。

相手が自分の事を好きだとわかっていれば、そうそう気持ちが離れることはないのかもしれない。

言ってみれば、外国人が常に愛情を確認し合うのと同じだ。


──!


「んっ……」



 

「こら、香月。またそうやって……」

「ん? なに、どうしたの華ちゃん?」

「ん……」



 

香月に促されてPCのモニタを見ると、そこにはSNSのサイトが表示されていた。

コメントを見る限り、外国の観光客のもののようだが、そこには──。


「わわっ、スクランブル交差点のど真ん中で抱き合ってる……」


ん……?


「あら? これって、拓留と有村さんじゃない……?」

「なに!?」


「うわああああああああ!!!」

 

 

 

「この動画……海外のサイトで話題になってる……かも……」

「どれどれ? もっとよく見せて?」

 



『僕は君のことが……大っ嫌いだああああああっ!』

 


「おいっ! スピーカーの音量を上げるな!」


「へぇ、これが噂の……」

 

 

 

「いやぁ、照れますなぁ」

「待て! 見世物じゃないんだぞ! 香月も、すぐに閉じろ!」



 

「えぇ、なんでー。せっかくなんだから見せてくれてもいいじゃない」

「そうだそうだー」

「いや、なんでお前まで一緒になってるんだよ、雛絵」

「だってー、先輩の告白シーン、私も見たいじゃないですかー」

「そんなもの、見る必要ない!」



 

「ひどいっ! さては私のこと、嫌いになったんでしょ」

「あんまりわけのわからないことばっかり言ってると、嫌いになるぞ」



 

「先輩…………好きっ!」

 

「お前ら、お笑いコンビかよ……」


とまあ、こんな調子で、僕たちの関係は今のところ順調だった。


………

 


……

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま。美味かったよ」
「ほんとですか? じゃあ、また作ってきますね」


食べ終えた弁当箱を可愛らしい巾着袋に仕舞いながら、雛絵は嬉しそうに微笑んだ。

さすがにあの日以降、雛絵は僕の部屋へ居候するのをやめた。

正式に付き合い始めたことで、きちんとケジメをつけなければいけないというのが彼女の意見だったし、僕もその意見には賛成だった。

付き合ってもいない男女が一緒に寝起きするよりも、付き合ってる男女が一緒に寝起きするほうが問題があるように思えるというのは、なんだか皮肉な気もするが……。

その代わりというわけじゃないけど、最近、僕たちは毎日こうして、ふたりで昼食を取っている。

雛絵の弁当がお世辞なしに美味いことは、僕の感想を聞いた彼女の反応をみればわかることだろう。



 

「先輩……もう少ししたら卒業しちゃうんですよね」
「ああ、そうだな……」


正直、あんまり実感はないけど、ここに通うのももうすぐで終わりだ。



 

「あーあ、先輩ともっと早く知り合えてたらよかったのに。そしたら、もっともっと、こんな風に、一緒の時間が過ごせたのにな」


僕の前で"演じること"をやめた雛絵は、こうして素直な態度を見せる機会が増えた。

これも僕だけが知っている、僕だけの雛絵だ。

もしもこんな姿を他の男がみたら、きっと皆彼女を放っておかないだろう。

でも、そうか……卒業したら、こうして学校で会えなくなるってことは……。


「心配だな……」
「なにがですか?」
「卒業したあと、学校で雛絵に言い寄るヤツが出ないとも限らない」



 

「もう、先輩ったら。そんな心配は無用ですよ。だって……」


雛絵が僕の肩に頭を預けて言った。


「私は、先輩以外のひとに、興味ありませんから……」


ああ……。


こういうのを幸せって言うんだろうな。


「ふぁあ……安心したら、ちょっと眠くなっちゃったな」
「ふふっ……しょうがないですねぇ……」



 

 

「……なんか悪いな」
「そんなこと言って、最初からそのつもりだったんでしょ?」


さすがだな。すべてお見通しだ。


「……先輩……お願いがあるんですけど……」
「ん?」
「こんど、家に来てくれませんか?」
「雛絵の家に?」
「はい。兄が一度会ってみたいって……」


最近になって知ったんだが、雛絵はかなりのお兄ちゃんっ子で、子供の頃はお兄ちゃんにべったりだったらしい。


「雛絵の好きな相手がどんな奴か、俺が見定めてやるって」


これはもしかして、あれじゃないのか?


『貴様なんかにお兄さんと呼ばれる筋合いはない!』的な。


「……ぼ、僕で大丈夫かな?」



 

「ふふ……大丈夫ですよ。だって私が選んだ相手だもん」


雛絵……。


「そ、そうか、わかったよ。それじゃあ今度……」
「はい」

雛絵がそう言ってくれるなら、僕には怖いものはない。

僕はこれからもきっと、雛絵の望むことなら、なんだって出来るはずだ。

それが、僕の望むことでもあるんだから。



 

「先輩?」
「…………」
「ふふ……寝ちゃったか。ありがとう、先輩」

 

…………

 

 

 

………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 



 

 

【有村雛絵編 Normal end】

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

『──2015年10月』



 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日の放送、最後にちょっと気になるトピックをひとつ。リスナーのみなさんの中には、"力士シール"というのを知っている方もいるでしょう。最近、渋谷のあちらこちらに貼ってある、謎のシールです。いったい誰が作っているものなのか、誰が街中に貼っているのか。そして、そのシールを好きな人の持ち物にこっそり貼りつけることが出来れば、その恋は成就するという噂は本当なのか。この番組では、今後、シールの謎にも迫っていきたいと思っています。ということで、それではまた次回、お会いしましょう。お相手は、わたくし"ケイさん"でした」

……



 

「ふぅ……」


いつも世話になっている渋谷の調査会社『フリージア』。

その一室で、今夜も特に変わったこともなく、"ケイさん"こと久野里澪の放送は終わった。

彼女は、渋谷周辺で聴くことが出来るコミュニティFMを使って様々な情報発信を行っている。

そのためには、渋谷中の細心情報や裏情報が集まってくる『フリージア』から放送するのが適しているため、いつもここを使わせてもらっているのだ。


そして、彼女の情報発信の目的は──



 

「……?」


目的は──


一瞬、なにか違う言葉が浮かびそうになったが、すぐに別の思考が彼女の中に湧き上がってきた。


──そう。碧朋学園の新聞部がどうにも頼りないからだ。


そこで、宮代拓留が取材してきた特ダネなどをバックアップしてやるために、この放送を行っているのだ。


「…………」


なんだろう?


宮代拓留。

その名前を頭の中に思い浮かべたとたん、ふっと哀しい気持ちになった。


まるで、もう帰ってこない大切な友人を悼んでいるかのような。



 

「なにをバカな」


今日の昼間だって、宮代とは部室でさんざん大喧嘩をしてきた。

澪の頭が固いだの、発想が古いだの……これでも一応、アメリカの某大学を飛び級で卒業し、いよいよ博士号を狙うための研究をしに日本へ来たのだ。


そんな澪に向かって、あいつは──。



 

そこで、また澪の思考が途切れた。


(研究……?)


いったい何のため? どんな研究を?


──!

 

 

 

「うっ、くっ……」


ズキンッとこめかみのあたりに激痛が走った。

それに続いて、頭全体を締め付けられるような痛みが彼女を襲う。


これは、薬など効かない原因不明の頭痛だった。

何かを思い出そうとすると、それを邪魔するかのように澪を苦しめ続ける。

そして、思い出そうとするのをやめれば、まるで波のように引いていく。

だから、歯を食いしばって痛みに耐えながら、別の事を考えようとした。

そうすれば、この激痛から逃れられる。


そう。今回もそのはず──だった。


──ピーッ……。



 

「!?」


突然、澪のPCが不快なビープ音を発した。

その音に顔を上げた澪は、PCの画面に映っているものを見て、思わず目を見張った。

ついさっきまでは、ただニコヤカに笑っていただけの変な力士のシール。

それが、まったく別の図柄に変わっていたのだ。

 

 

 

それはまるで、眼球を三つ持った力士の男が、ひたすら苦悩の表情を浮かべているかのような、そんな不気味な表情のシールだった。


「これは……」

 

──次の瞬間。

 

 

 

力士のような男の真ん中の瞳がカッと見開かれた。


「ぐっ!?」


そして、のたうちまわらずにはいられないほどの頭痛が、澪に襲いかかった。


「ぐああっ……これは……これはっ……」


知っている。

 

私は、"これを知っている"

 

でも、激しい頭痛のせいで、思い出すことが出来ない。

 

と……あまりの痛みに床を這いつくばっていた澪は、PCに新規のメールが届く音を聞いた。


かろうじて手を伸ばし、電源ケーブルをつかんでノートPCを床に引きずり落とした。


PCは床を転がり、どこかが割れたのか、メキッという嫌な音がした。


が、そんなことなど気にすることも出来ないまま、澪はPCに向かって床をはいずった。


頭を締め付けるあまりの激痛に、わずか1メートル程度の距離がその数倍にも感じる。


震える指先がようやくPCに届いた澪は、比喩でもなんでもなく、本当に最後の力を振り絞ってタッチパッドを操作し、メールボックスを開いた。


かすむ目で、送られてきたばかりのメールを読む。

 

そして、それを読み終えた瞬間──!

 

 


「うああああああああああ!」

 


澪は、両手で頭を抱えるようにすると、うずくまったまま絶叫した。

 

………

 

 

 

……